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あなたはビルゲイツの試験に受かるか?
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その122

慣性の法則

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 「条件付き確率」と言って、「結果から原因の確率を推測する」、「過去から未来を推測する」という手法は、ベイズの定理としてもよく知られており、前問と前々問はこの条件付き確率の問題でしたが、このような問題は、早稲田大学、学習院大学、自治医科大学、大阪工業大学、旭川医科大学、名古屋女子大学、浜松医大学、広島修道大学、琉球大学など、多くの大学入試でも出題されています。
 時とともに社会が求める人材の能力にも変化がみられ、この大学入試もそれに沿って2020年から入試の出題内容も大きく変わってきます。

 本連載の「その105、その106、その118、その119」などで新聞記事とともに、逐次、その概要を紹介してきましたが、先日の2016年4月19日付け朝日新聞にも 「考える力 必要な時代」と題する次のような一面記事が掲載されました。

 <中学・高校や大学の入試で資料や図表を読み解く問題が増えている。センター試験に代わる新テストでもこの傾向が採り入れられる方向にあり、その理由は実社会で資料やグラフなどの図表を目にすることが多いため。
 これまでの読解力や思考力だけでは実際の社会を渡ってはいけない。だから現実の社会で出合う素材を読み解き、自分で考える力を養おうという流れになってきている。
 語彙・読解力検定も、まさに社会を読み解く力を養う検定で、プレゼンや表現力を磨くには読解力が欠かせない。国際的な学習到達度調査も、より身近なものを題材に数学的な読解力や科学的な読解力を問うている。

 文部科学省の有識者会議がまとめた大学入試センター試験に代わる2020年度からの「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」も同じ潮流を汲んでおり、グラフなどの資料を読み解く問題が特徴。記述式も導入される。

 国語だけでなく、数学、理科、社会、英語などでも「グラフ・図表」や「複数の文章」などから情報を読み取り、分析する力を問う内容になっている。
 知識だけでなく、考える過程を問い、学生の思考力や判断力、表現力をみることになる。
 資料を読み解く問題や記述式が出題されるのは、「単に知識を問うだけでなく、思考力や判断力、表現力を中心に評価する」ため。有識者会議の最終報告では「複数の情報を統合して新しい考えをまとめる思考・判断の能力やその過程を表現する能力は、社会で主体的に活動するために非常に重要だ」としている。
 「日本の18歳人口が急減するなか、これからは海外の多様な人たちと協力して働く時代になる。人に言われたことをうのみにするのではなく、自分で問題を見つけ出し、自分で考える力が求められる。今の学生は、仮説を与えられれば答えを出すことができるが、自分で仮説を考える力は不足している。選択肢の中から一つの正解を選ぶ問題だけではなく、様々な情報のなかから重要なものを自分で抽出し、組み合わせて考える力が大切だ」(有識者会議の安西祐一郎座長)>と。

 先進国に追いつき追い越せの時代はもはやはるか昔のことで、すぐに解答が出ない、学校では教わらなかったような場面に遭遇することが頻繁に起こる中で、先頭を走らなければならなくなってきている日本の将来を担う若者には、未知・未体験の世界での問題解決能力、新たな創造力、いわゆる英知・自ら考える頭脳、つまり独自の素頭で考える地頭力が必要不可欠になってきているというわけです。
 今や、記憶力や計算力、知識量や感知度といった分野では、もはや脳よりもはるかに優れた能力を発揮するパソコンやスマートホン、インターネットやセンサーに任せて、人間本来の「考える力」をさらに伸ばすために、もっと思考力・創造力・判断力・表現力・説得力を見ることのできる入試方式へと舵が切られたということです。

 時代の要請に応えて、このように大学入試も変革の時を迎えましたが、大学教育についてはどうか。朝日新聞社による調査によれば、60%強の国民は「世界に通用する人材を育てることができていない」、「企業や社会が求める人材を育てることができていない」と、今日の教育状況に満足していない結果が出ています。
 これからさらにグローバル化していく世界に伍していくには、やはり「自ら考えて問題を解決していく能力が必須であり、そのような能力を培い発揮できるような教育カリキュラムが望まれるということです。

 この「考える力」の価値。つい最近、世界の潮流がこの価値をはっきりと教えてくれる出来事がありました。

 それは、日本の大企業・シャープがアジアの新興国に買収されるという前代未聞の現象です。 
 ではこの潮流による出来事と「考える力」の価値との間にある大いなる関係とは、いったいどんな関係なのか。重要なことなので、連載次号の巻頭でスペースをいただき、詳しく説明したいと思います。

それでは今号の設問に入ります。
 

設問122   停止状態の車の中に、ヘリウムガスの入った風船が浮かんでいます。 窓はすべて閉まっています。車が発進しました。 この風船は、進行方向(前)に動くでしょうか、 進行方向とは逆(後ろ)に動くでしょうか、 それとも動かないでしょうか?

 この設問は、そのものずばりの物理の問題です。したがって、求められている解答とは風船の向かう方向なのですが、その解答だけではなく、やはり「なぜ、その方向なのか」の説明をする必要があります。

 そこで理論はさておき、この設問の答として、真っ先に考えつくことと言えば日常体験する現象、つまり皆さんが電車や車などに乗っていて経験することだと思います。
 それは、車内に固定されていないすべての物体は、車の発進と同時に、車内にいる人から見て進行とは逆の方向に動くと感じる光景です。

物理学の視点から難しいことを言えば、この現象を慣性の法則といって、止まっている物体に力を加えなければ、そのまま止まり続け、また運動している物体に力を加えなければ、そのまま等速度運動(同じ速度で直線運動)を続けるというものです。

 したがって、力の加わらない車内にあるすべての物体はそこに止まり続けようとしているだけであって、実際には電車や車のほうに力が加わって発進するがために、止まり続けようとする物体はあたかも進行方向とは逆に動くという現象を目の当たりにするわけです。

 設問70と71で見たように、動体のスピードが光速に近いものであったり、また動体を見る人が動体の外から見ているのか、動体の中で見ているのかによって、時間とか空間の長さが違ってくるという相対性理論の世界がありますが、ここでは、「窓はすべて閉まっています」と設問文の前提にあるように、あくまでも車内にいる人から見て日常的な速さを論じていますので、日頃、我々の体験する範囲内で話を進めることにします。

 そこで車内に固定されていない風船についてもこれにしたがって話を進めれば、進行方向とは逆の後ろのほうに動く、という思いに至ると思われますが、これが答だとするとあまりにも単純すぎて、面接試験にわざわざ出題する問題なのか、という疑問が出てくるはずです。

 そこで何かヒントになるようなものがないか、思案を巡らしてみますと、1つ思い当たるのは、面接で出題されるような問題は本質的で基本となるベースは変わらずに、設定条件がいろいろ変えてあるだけという問題が多いという点です。
 そこで、キーワードの「ヘリウム」や「風船」などを使って、本連載の設問を検索してみますと、設問その91の「地球よりも月で重くなるものは何か」にヒットします。

 この設問91で何がキーになるポイントだったかを改めて見ますと、それは大気でした。つまり空気は目には見えないだけに気づきにくいポイントになるのですが、確かにそこに窒素や酸素などの物質が存在するわけです。
 ということは、当設問122の場合もその物質、つまり空気も車の進行方向とは逆方向に動くということに気づきます。
 そしてその空気が動けば、そこに浮かんでいる風船も、それと一緒に同じ方向に動くのではないか、と直感的に思いますが、ここでよ〜く考えてみるわけです。

 普通、風船は空気中をどんどん上昇していくのはなぜか。それはヘリウムなどの風船の中の物質よりも重い窒素や酸素などから構成されている空気が重力に引っぱられて、風船の下側にどんどん潜り込む結果、浮力という力が働いて風船は上へ上へと押しやられるということです。

 このことを念頭に考えれば、車の発進により、車の中の空気は風船にとって進行方向に向けてあたかも浮力のような形で働くことになり、結果、風船は車の発進方向に動くということになります。
 この場合、車の発進による横方向の影響を受けるだけでなく、重力のかかる縦方向にも空気による浮力が常に働いていますので、結果、2つの合力で進行方向斜め上の方向に向かって動く
ことになるのです。

 風船の動きを理論的に説明するとこのようになるのですが、感覚的に納得しづらいのか、実際の面接試験では正解者はずいぶんと少なかったそうで、どうしても直感的にこのような現象を想像できない皆さんが多いということかもしれません。
 どうしても納得できないという皆さんは、風船を手に入れる機会をみつけて、ご自分の車で試してみてください。車の発進と同時に、この現象が見られるはずです。

 当設問の背景は、慣性という物理の基本を理解しているかどうかをみようとするものです。設問は進行方向に沿った横軸に対しての答を求めていますが、実際に起こる現象として、重力方向に当たる縦軸に働く浮力も考慮した答ならば、満点の評価になるものと思います。

 それでは設問122の解答です。

正解

正解122

 風船は進行方向(前方)に動く。厳密に補足すれば、進行方向斜め上に向かって動く。車が発進した瞬間、慣性によって空気の分子が後ろに押され、浮力とともに風船を前方の斜め上の方向に向かって動かす小さな圧力が生まれるから。

 
 では、次の問題をやってみてください。


問題 設問123  3つの箱A、B、Cがあり、それぞれに黒球、白球、赤球が入っています。それらの個数は表の通りです。今、でたらめに1つの箱を選び、球を1つ取り出すとします。取り出した球が黒球であるとき、それが箱Aから取り出された確率はどれだけか?


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 ビル・ゲイツの出題問題に関しては、HOW WOULD YOU MOVE MOUNT FUJI ? (Microsoft’s cult of the puzzle. How the world’s smartest companies select the most creative thinkers. )By William Poundstore の原書や、筆者の海外における友人たちの情報を参考にしています。
 また連絡先不明などにより、直接ご連絡の取れなかった一部メディア媒体からの引用画像につきましては、当欄上をお借りしてお許しをいただきたく、よろしくお願い申し上げます。

執筆者紹介


執筆者 梶谷通稔
(かじたに みちとし)

テレビ出演と取材(NHKクローズアップ現代、フジテレビ、テレビ朝日、スカパー)

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