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あなたはビルゲイツの試験に受かるか?
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その33:視点を変えた論理思考、出だしの発想がキー
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 マイクロソフトやグーグル、そしてコンサルタント会社だけでなく、今や、「フォーチュン」トップ500社や、銀行、保険会社、マスコミ、航空会社、さらには軍にまで広がってきている思考パズル面接のルーツを辿れば、それは1957年、ポケットの中にストップウォッチを忍ばせたショックレーが元祖であったことが、前問32の解説でおわかりいただけたと思います。
 さらにこの設問32は、そのベースに論理思考があれば、どんなケースに当たってもほとんど即答できるという良い例でしたが、さて、今号もどうやらこの即答に関係しそうです。

 それでは解説です。


問題 設問33

ここに外見上区別のつかない8枚の硬貨があり、そのうちの1枚だけ他のものより軽いものがある。両皿天秤を使って、軽い硬貨を特定するには最低何回量ればいいか。また、9枚の中の1枚を特定する場合だったら、何回量ればいいか。


天秤
硬貨
8個
硬貨
9個

 皆さんの中には過去、これとまったく同じ、あるいは大変似ている問題に出会ったという経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか。この種の問題の歴史は古いようで、パズルの分野ではかなりポピュラーなものになっているはずですが、マイクロソフトでは今でもこの種のパズルを出しているようです。
 こう述べますと、「えっ、これはビル・ゲイツの出題じゃないの?」との声が聞こえてきそうですが、それについてはのちほどお答えします。

 或るものを特定しなければならないという設問は、これまで見たものの中で、設問6の「3つの照明用スイッチ」の特定や、設問8の「赤玉、白玉、混合玉の箱」の特定、また設問25の「めくらなければならないカード」の特定や、設問17の「一度だけの計量で、中身の違う玉の箱」を特定するものがありましたが、秤などを使って特定するという意味では、この設問17が今回の設問に一番近いものになるでしょう。

 しかしそれは天秤ではなく、計量のできる通常の秤を使って、しかも量る回数が1回だけと限定されている中での方法を問うものでしたから、今回の設問とは中身が違います。
 ところがその正解はといえば、頭脳明晰な人であっても、つい見落としてしまいがちな、まさしく落とし穴のある問題でした。
 これらの設問も含め、ビル・ゲイツはケーキの二分方法を問う設問19などを代表的なものとして、常にスピーディで簡便なプロセス処理のできる方法を望んでいます。

 もちろんストップウォッチまで用意してその回答時間を秒単位で計るというショックレーの出した前問32、テニス・トーナメントの設問などは極端な例かもしれませんが、このようなパズルでは常に論理思考に基づくクイックな回答、あるいは処理方法が求められている点では、今号の設問も例外ではありません。

 そこで今回の問題ですが、設問16のときと同様に、最初の取っ掛かりの発想が大変重要なポイントになります。設問16において、いきなり砂時計を反転する様子から入って行こうとした方たちは、途中で見落としがあったり、時間がかかったりしたはずです。そこでは最初に式を考えてみることによって、そのような弊害を避けることができました。
 今回も、最初から天秤に貨幣を置いて行くという、つまり具体的な形の想定から始めた方も多かったのではないかと思いますが、このような入り方をしますと、どうしても試行錯誤で時間を取られ、見落としがあったり時間がかかったりしがちになります。

 では、今回はどのような発想をしたらいいのか。今号の設問は式ではなく、テーブルの上に10円玉を交互に置き、それが最後に置けなくなるまで競うという設問22で披露した解説がヒントになります。
 どのように解くか、その最初で披露した「極端に小さなテーブルだったら・・・」というところを思い出していただければわかりますが、それは、通常ならば10円玉に気を取られがちなところを、テーブルにポイントを置いた発想でした。つまり焦点を変えてみるという発想によって無理なくスムースに正解に辿り着くことができました。

 そこで今回の設問にこのような発想を当てはめてみるとどうなるか。すると、最初に提示されている貨幣の個数などには気を取られずに、天秤に思考のポイントを置くという考え方が出てくると思います。
 そこで天秤に焦点を当てますと、1回だけの最少の計測で、貨幣何個までだったらその中の1個の軽いものを特定できるか、という発想が思い浮かんでくると思います。

 では、この発想をベースに解いていってみます。まず、ここで使用できるのは対象物の重さを計測する普通の秤ではなく、その釣り合いを見るだけで1枚の軽い貨幣を見つけ出そうという、目盛などのない天秤です。
 そこで当初、貨幣が2枚だったなら、これは簡単にわかります。1枚ずつ天秤の両皿に乗せれば、どちらが軽いか一目瞭然です。便宜上、これを2枚の法則としておきます。

貨幣3枚の場合基本形
貨幣3枚のうち、任意の2枚を天秤に載せる

 では、3枚だったらどうか。これも簡単にわかるのです。まず、どれでもいいですから、3枚の貨幣のうち2枚を選んで両皿に乗せ、そこでバランスが崩れれば軽いほうが当該貨幣で、もしもバランスがとれていれば、残っているもう1枚が当該貨幣ということです。1回の計測で済みます。これを便宜上、3枚の法則とします。

 次に、4枚だったらどうか。バランスを見ながら特定していくという天秤ですから、両皿には同じ枚数の貨幣を乗せる必要があります。全部で4枚の貨幣ですから、この場合の両皿に乗せる組合せは、1枚ずつか、2枚ずつしかありません。
 最初にどれかの貨幣1枚ずつ乗せてバランスが崩れたら、そこですぐに軽い貨幣を特定できますが、崩れなかった場合、残りの2枚をもう一度両皿に乗せないとわかりません。したがって、確実に軽い貨幣を特定するまでには、少なくとも2回の計測が必要になります。
 また、最初に2枚ずつ同時に両皿に乗せた場合、これはバランスが崩れるためどちらの皿に軽い硬貨が乗っているかはわかりますが、それ以上のことはわかりません。さらにその軽く浮いたほうの皿に乗っている2枚の貨幣のうち、どちらが軽いものか特定するには、もう一度、この2枚の貨幣を1枚ずつ両皿に乗せてみないとわからなく、やはり、2回の計測が必要になります。

 つまり、1回だけの天秤計測で、1枚の軽い貨幣を見つけ出せる当初の貨幣枚数は最大3枚までであることがわかります。なぜ1回の計測で3つのことがわかるのか、それは当初から軽いという識別子が与えられているからです。軽いか重いかわからなく、ただ重さが違う異質の貨幣というだけだったら、やはり2回の計測が必要になります。
 この設問では、このようにして天秤の1回の計測で3つのものを判定できることがわかるとともに、ここから対象の貨幣を最大3組に分けてみるという発想が出てくると思います。

 たとえば、当初の貨幣枚数が5枚ならば、天秤で比べるための同じ枚数になる組を入れた最大3組を考えると、2枚、2枚、1枚になります。したがって、まずこの2つの組の2枚を両皿に乗せてみて、もしバランスするようなら残りの1枚が軽いことになり、どちらかの組が軽いと出れば、その組を1枚と1枚に分けてもう一度量れば、そこで軽い貨幣がわかります。前述の2枚の法則です。
 また、6枚ならば、同様に3枚と3枚と0枚の、また7枚ならば、3枚、3枚、1枚の3組として、いずれも3枚の法則によって、合計2回の計測で特定できることが簡単にわかります。

貨幣8枚の場合
任意の3枚組を天秤に載せる
貨幣9枚の場合
任意の3枚組を天秤に載せる

 このように考えれば、貨幣8枚であろうが、9枚であろうが、簡単に正解を出せることがおわかりいただけると思います。
 すなわち8枚の場合は、3枚、3枚、2枚の組に、また9枚の場合は3枚、3枚、3枚の組に分ければよく、いずれの場合も1回目には最初の3枚組ペアのバランスを見ます。そこで、どちらかが軽いと出たら次に2回目としてその軽いと出たほうに、3枚の法則を適用すればよく、またもしバランスすれば2回目の計測として前者は残りに2枚の法則を、後者には残りに3枚の法則を当てはめればよいわけで、いずれの場合も2回の計測で済みます。

 初めから、ただ闇雲にあれこれやってみるよりも、このような当初の発想をすればすっきりと解けることがわかります。ここまできたら、この論理思考を延長して10枚以上ではどうなるか、その一般化を考えてみたいと思います。
 そこでこの9枚が出てきた機会に、9枚、9枚、9枚の3組で合計27枚を考えてみますと、最初の9枚同士のバランスを見ることにより、結局3枚の法則で合計3回の計測で済むことがわかります。ということは、当然27枚以下10枚までは最大3回で済まなければおかしいことになります。実際、3枚の法則と2枚の法則を使って具体的にやっていただければ、容易にそれがわかります。

 ここまでくれば、もうおわかりになると思いますが、当初の貨幣が28枚以上どんなに大きな枚数であっても、それが27枚以下になるまで3組ずつに分けていき、その回数を求めれば、最終的な解答回数を簡単に出すことができるということです。
 例えば、当初の枚数が301枚だとすると、その1/3にしたペアを含む3組、100枚、100枚、101枚に、そしてその中の一番大きな101枚を1/3にして33枚、33枚、35枚に、さらにその中の一番大きな35枚を1/3にして11枚、11枚、13枚に分解し、そしてその中の一番大きな数が最終的に28枚以下になった段階で、そこに至るまでの計測回数3回を求め、それに27枚以下10枚以上に必要な計測の3回を加えれば、解答の最低必要な回数である6回が簡単に出てきます。

ストップウォッチ

 つまり28枚よりどんなに多くの枚数でも、当初の枚数を27枚より少なくなるまで1/3にしていき、そこに至るまでの回数に3を加えたもの、それが答えになります。
 こうした一般化した論理思考を持っていれば、ショックレーがストップウォッチで測ろうがどうしようが、ビクつくことはないわけです。

 さて、この種のものは今でもマイクロソフトで出題されていると、冒頭のほうで述べましたが、ここに引用したもののオリジナル版といえば「ここに8枚の硬貨があります。そのうち1枚だけ他のものより軽いものがあります。両皿天秤を2回だけ使って、軽い硬貨を特定してください」というもので、これは実は1979年、ヒューレット・パッカード社の面接試験の問題でした。

ビルゲイツ

 1979年といえば、マイクロソフトはまだ全社員数が15人という会社でしたから、この種の面接問題などビル・ゲイツの頭の中にはまったくなかったときです。
 その後、設問23で解説したように、彼は面接時における論理パズルの価値を次第に見抜いていって、今や、ビジネス界で普及しているような形として有名にしたということになります。

 この設問33は、最初から2回という解答を与えてその方法を問うヒューレット・パッカード社の問題を、私が少し変えたもので、さらにまたその解き方を暗示する形で9枚のケースも付け加えたものです。
 最初に8枚のケースに取り掛かり、3回の計測が必要と思っていた方も、おそらく9枚のケースから逆にヒントを得て、8枚のケースも2回の計測でよいとわかった方もおられるのではないでしょうか。


正解 正解33

8枚のケースも、9枚のケースも2回(図を参照)。


 それではビル・ゲイツがどんな顔をするか想像しながら、次回の設問である窓に付いているあのブラインドの問題を考えてください。


問題 設問34

ブラインドのリモコン装置を設計してください。


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 ビル・ゲイツの出題問題に関しては、HOW WOULD YOU MOVE MOUNT FUJI ? (Microsoft’s cult of the puzzle. How the world’s smartest companies select the most creative thinkers. )By William Poundstore の原書や、筆者の海外における友人たちの情報を参考にしています。
 また連絡先不明などにより、直接ご連絡の取れなかった一部メディア媒体からの引用画像につきましては、当欄上をお借りしてお許しをいただきたく、よろしくお願い申し上げます。

執筆者紹介


執筆者 梶谷通稔
(かじたに みちとし)

テレビ出演と取材(NHKクローズアップ現代、フジテレビ、テレビ朝日、スカパー)

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