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あなたはビルゲイツの試験に受かるか?
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その44 問題の裏を読む
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 前問では100個もあるロッカーを、毎回違う飛び飛び間隔で開閉するということから、複雑極まりない問題に見えましたが、ある種の法則に則った数列の世界の答として解けたのは、横に並んでいる対象物に規則正しいルールが課せられているからでした。
 ところが、この課せられたルール以外にもヒントとなる糸口があったのですが、気がつきましたか?それは今回の設問のために、あえて伏せました。以下の解説の中でわかります。
 それでは今号の解説に入ります。


問題 設問44 盲人用のスパイス置きの棚を設計しなさい。

スパイス スパイス棚

 この新たな設問に類似の問題としてこれまでにも、設問24の「ビル・ゲイツの浴室を設計するとしたらどうしますか」や、設問34の「ブラインドのリモコン装置を設計してください」などがありましたので、それらをご覧いただいている皆さんならば、おそらく戸惑うことなく回答に取りかかれたものと思います。

 「戸惑うことなく」と申し上げたのは、過去の例を通してその出題背景に共通しているものを、うすうす感じておられると思うからですが、そのお気づきになったと思われる共通しているものとは、いずれも確たる数値解が出てくるというような類の問題ではなく、受験応募者の「発想の豊かさ、奇抜さ、斬新さ」を見ようとしている、ということだったと思います。
 それゆえに、その回答は千差万別になり、さらにもしも提案のどこかに出題者側をうならせるような光るものがあれば、むしろ先方から乞われて合格がもらえるという、そんな類の問題だということです。
 したがってこの種の設問に対しては、自分の思うような形で回答ができるという自由度が広がる分だけ、ある意味の「易しい」と感じる部分もあるのですが、一方では、無限とも言える未知数の「発想、奇抜、斬新」の中から、「これは!」というものを考え出さねばなりませんから「難しい」とも言えるわけです。

 では、解説に入ります。
 このような自由度の広がる設問では、とかく内容が発散してしまい、結局、回答が漠然として意味のないものになってしまうことが、しばしば起こりがちになりますが、それを避ける1つの方法として、設問をもう一度熟読してみる手があります。
  “再度、熟読すると言っても、この設問は、簡潔明瞭に短文でまとめられているので、これ以上、他に何もつかめないのではないか”となるかもしれませんが、そんなときは設問を他の表現に変えてみるということをやってみるとわかり易いかもしれません。

 それはどういうことかと言いますと、言い換えてみることにより設問で隠れているものが出てきて、それが大きなヒントになるという意味です。
 設問25のカードの問題、設問31の保育園園児の問題、設問35の崩れそうな橋の問題、設問37の2つの扉の問題などでも再三言及してきましたが、「そこに隠れた条件、暗に隠されているもの」を見出すことにより、解答への糸口が見つかりました。

スパイス棚

 当初、設問を見た途端、すごく複雑そうに感じてしまった前問のタイトルに「隠れた規則性の見極め」と付けたのもその意味からで、設問を注意深く読んでいくと、巻頭で述べた“あえて伏せた”糸口として、この隠れた部分のヒントに気づくはずなのです。
 もう一度、前問を引用してわかり易く説明しますと、“ある学校で・・・以下同様です。話を簡単にするために、ここではロッカーは全部で100台だけとします。・・・”の中の“簡単にするため、ここでは100台だけ”の部分にそのヒントが隠されているということです。
 これを別の表現にしてみますと、“100台でも、1000台でも、1万台でも同じルールでわかりますよ”と、暗に言っていることと同じで、このことから逆に10台、20台でも同じく、そこに糸口を見つけることができます、ということがそこで明かされているということなのです。

スパイス棚

 では別の他の表現にするとして、今号の設問の場合はどうでしょうか。
 棚は棚、スパイスはスパイス、たとえスパイスを香辛料と表現しても、単に日本語にしただけで「暗に隠れているもの」には相当しません。
 では、盲人はどうか。この設問の主体を成すものは感覚の使いどころということに思い至れば、これにはありそうです。設問で断っていないかぎり、目が不自由な人でも他の五感は正常だということです。ですから頭の中で“他の五感、触覚、聴覚、味覚、嗅覚は健常である盲人のスパイス置きの棚を設計しなさい”と表現を変えて思案すれば、これらの感覚に焦点を合わせたいろんな角度からの案も作れることになり、発散することなくまとめ易くもなります。
 おそらく多くの皆さんが触覚としてのアイデア、点字には思いが至ったと思いますが、このような回りくどい説明をしたのは、隠れているものを見つけそこに見落としもないようにするためで、「発想の豊かさ、奇抜さ、斬新さ」という点からもそれだけバラエティに富んだ案を導き出すことのできる手助けになるということです。

 さて、設問は棚置き場だけについて尋ねていますが、どのスパイスがどの容器に入っているかがあらかじめわかっていないことには、その容器を置くどんなに優れたアイデアの棚を設計してもまったく意味をなしません。
 ですから一応、面接官にスパイスの容器はすでに盲人にも識別できるようになっているということを確認してから前に進むことです。筆記試験と違って面接は、受験応募者の受け答えや面接官とのやり取りの中で、その力量が測られる場でもあることを念頭においておかねばなりません。

 次に、触覚、聴覚、味覚、嗅覚を使うことを考えてみますが、味覚や嗅覚は棚というよりも容器の中身自身を云々することに関係することですから、あくまでも棚の設計ということから考えてこれらは除外します。
 すると、残るは触覚と聴覚ですが、その1つは棚に点字を貼ってわかるようにするという案になりますが、それはすでに実践されているような誰でもすぐ思いつく案なので、まったく新鮮味や奇抜さ、斬新さに欠けます。

腕時計 ボタンを押すと時刻を音声で報せるものや、蓋を開けて長針短針に触れるものなど。 音声で数値を知らせる体温計 音声で数値を知らせる体重計
ボタンを押すと時刻を音声で報せる
ものや、蓋を開けて長針短針に
触れるものなど。
音声で数値を知らせる体温計 音声で数値を知らせる体重計

 そこで残る聴覚に目を向けてみます。盲人は視覚が不自由であるだけに、その感覚を補うための聴覚は人並みはずれたものになっているということは既知の事実です。すでに盲人用として、音声式の時計や体温計、体重計などが商品化されていることからも、聴覚に訴える棚ならば歓迎されるはずです。

スパイス棚の図

 そこで音声式を考えたいところですが、利用するスパイスの種類が少しの場合はともかくスパイスにもいろいろな種類があり、その種類に制限なく誰でも適宜利用できるような自由度を持たせるためには、あらかじめスパイスなどの名前を音声で入れておくことには無理があります。
 そこは音声ではなく電子音のトーンで識別できるようにして、それぞれのスパイス容器を収めるスポットにそれぞれ違った電子音の出るタッチボタンを設置したデザインにします。簡単な識別法として喜ばれるはずです。ただしこの場合、最初、利用者が対応するスパイスと電子音各トーンとの組合せを決め、そのトーン音の識別に慣れるまで少々の訓練が必要になりますが、その利便性が初期の労力を補ってくれるはずです。
 また、棚はスパイスの容器が垂直に立つような形ではなく、斜めに収まるようなスポットの設計にしておけば、容器の出し入れもまたより簡単にできるようになります。
 しかしこれだけでは、棚に点字を施しておくのとさして変わりがなく、またその費用をカバーするほどのメリットもおぼつかないものになります。

 そこで、スパイスの量が少なくなってきたら補充を報せるような音が出るという付加価値案です。それには棚のスポットの1つを補充測定用スポットとして割り当てた設計にして、そこに入れたら重量が自動的に測れるようにして、結果、「補充が近く必要」と「ただちに補充が必要」との2段階くらいに分けた電子音が聞けるようなものにしておきます
 スパイスがなくなってしまった状態など、それこそ盲人にとって事前にはわかりませんから、非常に重宝がられるはずです。

スパイス棚 スパイス棚 スパイス

 この容器を収めるスポットのサイズや重量測定という観点から、容器は詰め替え用のふりかけ式で統一したものにしてもらいます。というのも、市販のスパイスはいろんな形やサイズの容器に入っているため、うまくスポットに収まらなかったり、また容器の重量もバラバラだからです。もちろん詰め替えは健常者に手伝ってもらい、それぞれの容器には点字のラベルを貼ってもらうことになります。

 なお、ふりかけではどれだけの量を出したのかわからないではないか、という心配もありますが、計量スプーンなどでは山盛り一杯か、すりきり一杯かなどの判別となると盲人には一層困難です。そこで一定量だけ出るボタン装置を容器に施せばいいのですが、そこまで費用をかけなくても、味覚も研ぎ澄まされた盲人の舌のほうが、はるかに勝っているはずですから、少しずつのふりかけで本人が味見をしながら適量を判断してもらえばいいのではないかと思います。
 問題は棚の設計ということですが、それを効果的なものにするためにはどうしてもスパイスの容器にも密接な関係が生じてきますので、必要ならば面接官にそのことを説明すればいいでしょう。

 それでは解答に移ります。当設問にはいろいろな発想に基づく設計案があり、次はそのサンプル解答です。


正解 正解44 サンプル解答
視覚が不自由な人は、その補完として特に聴覚などが優れていることから、スパイス容器を収納する各スポットごとにそれぞれ違うトーン音を出す電子音用タッチボタンを設置し、その音と容器を組み合わせた形で収納できるようにする。またその1つのスポットは重量が測れるようになっている補充測定用にして、「補充が近く必要」と「ただちに補充が必要」など2段階に分けた電子音が聞けるようなものにしておく。そのため、容器は各スポットにきっちり収まる詰め替え用ふりかけ式に統一してもらい、棚の状態は容器が斜めに収まるように設計して、容器の出し入れが容易なようにする。

 それでは次の問題を考えてみてください。


問題 設問45 6発入りの弾倉を持つ回転式の銃に、2発弾丸を隣り合わせで入れました。弾倉を回して1発を自分の頭にめがけて打ちましたが、幸い弾は出ませんでした。もう一度引き金を引かねばならないとき、助かるためには弾倉を回した方がよいか、それともそのまま続けた方がよいか。


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 ビル・ゲイツの出題問題に関しては、HOW WOULD YOU MOVE MOUNT FUJI ? (Microsoft’s cult of the puzzle. How the world’s smartest companies select the most creative thinkers. )By William Poundstore の原書や、筆者の海外における友人たちの情報を参考にしています。
 また連絡先不明などにより、直接ご連絡の取れなかった一部メディア媒体からの引用画像につきましては、当欄上をお借りしてお許しをいただきたく、よろしくお願い申し上げます。

執筆者紹介


執筆者 梶谷通稔
(かじたに みちとし)

テレビ出演と取材(NHKクローズアップ現代、フジテレビ、テレビ朝日、スカパー)

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