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あなたはビルゲイツの試験に受かるか?
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その59 簡単に解けそうな問題には何かある
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 前問で見た設問「アメリカにガソリン・スタンドは、何軒あるか」は、一見、荒唐無稽な問題のようにもみえますが、すでに当連載で体験していただいた「世界中にピアノの調律師は何人いるでしょう」、「アイスホッケーのリンクにある氷の重さは全部でいくらでしょう」、「富士山を動かすのに、どれだけ時間がかかるでしょう」、「ニューオリンズ地区を流れるミシシッピー川の1時間当たりの流水量はどれだけか」などと同様に、フェルミ推定の問題としてその論理思考の過程や分解した中身の構築の仕方などが身近なビジネスでも広く応用が利き役立つことから、最近の入社試験でもこのような問題がさかんに出題されているようです。
 このような傾向からもわかりますが、明日何が起こるか何が飛び出すかわからない今日の社会で、フェルミ問題を解いていく能力は新入社員というよりも、あらゆる層のビジネスマンに求められるようになってきたことを物語っています。
 この意味で読者の皆さんの中で、ビジネス界に関係されている方たちには進んでチャレンジすることをお薦めします。

 さて、今号の問題はどんな能力を見ようとしているのでしょうか。では問題です。

問題 設問59 縦に順に並んでいるA、B、C 、3人の生徒がいる。彼らは赤か白かどちらかの色のリュックを背負っている。彼らは自分の前に並んでいる生徒のリュックの色を見ることはできるが、後ろにいる生徒のリュックの色は見ることはできない。もちろん自分が背負っているリュックの色はわからない。つまり、CはAやBのリュックは見ることができ、AはBとCのリュックは見ることができなく、BはAを見られるが、Cはみられないという具合です。そこで先生がこの3人に、「少なくともこの中の1人は赤色のリュックを背負っているが、もしも自分のリュックの色がわかったら手を上げ、その理由を述べなさい。」と告げた。しばらくの沈黙の時間が流れたが、やがて1人の生徒が手を上げ、ちゃんとした理由とともに自分のリュックの色をピタリと当てた。その1人とは誰で色は何色だったか。

紅白のリュック

 当設問はフェルミ問題ではありませんが、これも論理思考の問題です。
 過去の設問でいえば、設問49の「不貞をはたらく村人」や、設問51の「100枚の金貨を5人の海賊で分ける」と同じ類のもので、登場している他の人の思考判断をベースにして解いていく問題ですが、今度は前出の2つの問題と比べれば、かなり簡単に解けたという皆さんが多かったのではないでしょうか。しかし落とし穴はないのか。

 では解説に入ります。

 その簡単に解けたと思われる方たちも含めて、わかっていると言われるかもしれませんが、重要なことなのでここで改めて確認しておきます。
 すべての設問で重要なのは、そのとっかかりの糸口をどう見つけるかなのですが、この連載の解説で常に意図していることは、単に「正解はこうです」といった解答形式ではなく、正解に至るまでの必然的な思考過程というものを丁寧に説いていくことです。したがって、注意深く問題を読み、最初の突破口、糸口、手がかりを見つけ出す過程、それを一つの重要なポイントとして常に重きを置いているということです。
 つまり、この突破口、糸口、手がかりを見つけ出す過程に慣れておけば、易しい問題はもちろんのこと、どんなに難しくみえる問題でも易しい問題に変わるということなのです。

 このことをまず念頭に置いて当の問題を見ますと、うしろに並んでいる生徒のリュックの色は見ることができないということ、これが一番の基本にある共通認識ですが、では次に注意深く読んでいきますと、「しばらくの沈黙の時間」「ちゃんとした理由」という言葉が、この設問の突破口、糸口、手がかりになることがわかってくると思います。

 なぜか。まず、一番うしろの生徒Cは前の2人 AとBの、つまり他の2人全部のリュックの色を見ることのできる、ただ1人一番有利な立場にいることがわかります。
 このCが有利な立場にあるにもかかわらず即座に返答のできない状況にあるという、そのことが「しばらくの沈黙の時間」という言葉で表わされているわけです。
 つまりこのことは、Cが自分のリュックの色がまったく判別できないような色の組合せで、AとBはリュックを背負っている、という突破口を物語っているということです。

図1:Cが即座に判別出来る場合
 ではこの突破口から見ていきます。Cが判別できないということは、Cが即座にわかる場合以外の組合せです。このときCが即座にわかるケースのほうが簡単に出ますので、それを見ますと、少なくとも1人は赤色という設問の状況下で、このケースに当るのはただ1つ、AとBが共に白色のときです(図1)。
 したがってAとBの色はこれ以外のケースになりますから、A、B共に赤色リュックか、またはどちらかが赤色でその残りのほうが白色である場合になります(図2)。
 Cが即座に返答をしなかったことから、AとB は残るこの3つのケースを考えるはずです。

図2:Bから見た場合
 ではCが即答できなかったことを受けて、次に有利な立場にある者といえばBです。そこで今度は前のCで見たような考え方をBに当てはめていけば、この3つのケースをせばめていける、ことを思いつくはずです。ここでBが即答できるケースはたった1つ、ケース4のAが白色のときだけです。したがって残るは、ケース2とケース3のAが赤色のときしかありません。

 結果、有利な立場にあるC、B共に即答できなかったという事実から、手をあげたのはAで、自分のリュックは赤色だと言ったことがわかります。

 しかし読者の皆さんの中には、CやBが手をあげて当たることだってあるではないか、との疑問を持つ人もいるかもしれません。それはたまたま当るかもしれませんが、当てるという行動ではありません。つまりその場合の論理的な裏づけができないからです。
 設問の中に「ちゃんとした理由」の言葉が入っているのはこのためだということもおわかりいただけると思います。

 さて、初めのほうで「しかし落とし穴はないのか」と述べましたが、ここまできて別にそれらしき落とし穴のようなものは何も見当たらないと思われる人もいるかもしれません。
 そう思う人は、上記のような方法で簡単に解いた人に多いかもしれません。なぜなら充分論理的に筋の通った方法で解いたのだから、落とし穴などあり得ないとの観点からです。

 そこで当シリーズの設問32「テニストーナメント問題」の出題背景を思い出していただくとわかります。その設問32も比較的簡単に解いた人が多かったと思いますが、それはシリコンバレーの面接試験でスタートした論理パズルの原点となった問題でした。
 そしてそのときの背景はといえば、ストップウォッチが用意されていて、いかに早く論理的な考え方で解答を導き出すか、というものでした。当設問59もまさにこれに当たります。

 設問32での合格者は3秒で正解を出していましたが、当設問ではどうか。その正解までの思考過程を順序立てて見れば、
 1. 一番うしろのCが、一番答え易い
 2. Cの見るA、Bのリュックの色の組合せは4つの可能性あり(図1と図2)
 3. Cの即答がないので、ケース1はない
 4. 次ぎに答え易いのはB
 5. Bの即答もないので、ケース4はない
 6. 残るはAが赤色という、ケース2とケース3だけ
となります。
  もしもAが白色リュックの場合にはCとBの即答がなく、この即答とは文字通りそれ自身に時間はかかりません。したがって当設問の正解を出すまでには、30秒もかからないということになり、それ以上かかるようでは合格はおぼつかないということです。

 では、正解です。



正解 正解59 上記、青色部分の内容で説明し、手を上げた生徒はAで、 そのリュックは赤色。

 それでは、次の設問を考えてみてください。

問題 設問60 5頭の競走馬 A、B、C、D、Eの出走前に、どの馬が1着で入るか4人の仲間で次のような予想を始めた。
春男「AとBはダメだと思う」
夏男「いや、1着にはAかDがくるだろう」
秋男「いや、多分BかCがくると思う」
冬男「AとEは無理だろうな」
結果、この中の2人の予想が当った。1着に入った馬はどれだったか。


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 ビル・ゲイツの出題問題に関しては、HOW WOULD YOU MOVE MOUNT FUJI ? (Microsoft’s cult of the puzzle. How the world’s smartest companies select the most creative thinkers. )By William Poundstore の原書や、筆者の海外における友人たちの情報を参考にしています。
 また連絡先不明などにより、直接ご連絡の取れなかった一部メディア媒体からの引用画像につきましては、当欄上をお借りしてお許しをいただきたく、よろしくお願い申し上げます。

執筆者紹介


執筆者 梶谷通稔
(かじたに みちとし)

テレビ出演と取材(NHKクローズアップ現代、フジテレビ、テレビ朝日、スカパー)

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