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あなたはビルゲイツの試験に受かるか?
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その90

結果が逆のように出ていたら、逆転の発想を。

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 映画「ヒューゴの不思議な発明」を参考例として、設問89の解き方を説明しましたが、そのトリックを担当したのはアカデミー視覚効果賞を2度も受賞したロブ・レガートという人で、彼の作品には随所にトリックが隠されています。
 「アポロ13号」では、実際のアポロの乗組員でさえ、本物の実写と模型による撮影をまったく区別ができませんでした。
 また映画「タイタニック」でも、3800mの深海に沈んでいる本物の船体やそれを捜索する小型マイクロ潜水艇とそれらの模型は画像の通りで、?マークの付いているものは、当のロブ・レガート本人でさえ画像をみただけでは、実写か模型かどちらかわからない、と言っているくらいです。
アポロ13号・タイタニックの実写と模型
 また「ヒューゴの不思議な発明」では、主人公のヒューゴが時計台の中を移動している最中に代役と入れ替わるのですが、その替わる部分がここだと、あらかじめ教えてもらっていないかぎり、おそらくわからないと思います。
 皆さんが、DVDなどで再び観るような機会があるならば、皆さんの目でこれらトリック部分を探し出すことにチャレンジしてみてください。また違った角度からの映画鑑賞もできるのではないかと思います。

 さて、今号の設問はどうでしょうか。

問題 設問90  鬼と善人が小さな無人島にいました。この島には井戸が7つあり、1番から7番まで番号がついています。どの井戸の水にも毒が入っています。ただし、井戸の水を飲んでも、その井戸よりも大きい番号の井戸の水を数分以内に飲めば助かります。たとえば、4番の井戸の水を飲んだら、5、6、7番のどれかの水を飲めば助かりますが、そうしないと死んでしまいます。7番の井戸だけは一番高いところにあるので、鬼は登って飲めますが善人は登れないので飲めません。ある日、鬼と善人が決闘をすることになりました。決闘の武器は井戸の水。それぞれがコップに入れて持参し、相手が指定したコップの水を飲むのです。ただし、コップの水がどの井戸のものかは、飲んでもわかりません。この決闘の後、善人は生き延び、鬼は死にました。鬼も善人も、合理的な考え方の持ち主です。善人はどんな戦略を用いて鬼を負かしたのでしょう。

鬼と善人と無人島

 まずこの設問を普通に考えれば、「そんなバカな!」というのが一般的な反応で、何かトリックでもあるのか、そう考えてしまわれた読者の方も多かったのではないでしょうか。
 説明文にもあるとおり、まさしく合理的な考え方をすればするほど、この思いに至るはずです。というのも、解毒効果という観点から見ると、7番の井戸水が一番強く、その7番の井戸水を使えるのは鬼だけで、善人は使えないからです。

井戸

 しかし設問の中に、「鬼も善人も合理的な考え方の持ち主」とあります。つまり論理的な手法を使えば解けるということなのでしょうか。
 そこで思い直して、何かヒントとなるようなこの種の問題が過去になかったかをみてみることにします。この種の問題とは、設問の中の登場者たちが与えられた事態の中で、互いに相手がどう考えるのか、その相手の思惑を論理的に分析することにより解答を出すという問題です。

 当連載については、まだ知ったばかりだという方たちには少々お待ちをいただき、これまでの連載愛読者の皆さんには、ここでその過去を振り返っていただくことにしますと、次のような設問に思い当るのではないかと思います。

 1つは設問49の「村の女王」の問題。このケースでは登場者が50組の夫婦という多人数ですが、結局は2人だけの場合を起点として、順次、相手の思惑と動きを見ていくことにより解答に至りました。
 1つは設問51の「海賊」の問題。このケースでは登場者数が5人ですが、やはり2人だけの場合を起点として、順次、自分以外の相手がどのように考えるかを見ていくことにより解答に至りました。
 もう1つは設問77の「独裁者」の問題。このケースでは人数の特定はなく、何十人いても構わない問題ですが、やはり2人だけの場合を起点として、自分以外の相手がどのように考えるかを見ていくことにより解くことができました。

 いずれの設問でも、2人の場合を起点として、相手がどのように考えるかを論理的な視点から見ていくことで解決しました。
 しかしこの設問90では、すでに2人だけの問題なっていることから、そんなことは特別参考にならないではないか、ということになるかもしれません。
 しかしもう一つの、相手がどう考えるかのところを詰めていけば、何かがわかってくる、があります。

鬼
善人

 そんなことを言っても、7番の井戸水の解毒効果が一番強く、その井戸水を使えるのは鬼だけなのだから、やはり善人の助かる術などはないのではないかと、堂々巡りが始まります。なぜ、堂々巡りが起きてしまうのか。そこでビル・ゲイツの言う「よ〜く考えよ」ということです。
 これまでもたびたび見てきたように、どの設問にも必ずどこかにそれを解く手がかりや糸口、突破口があって、その着眼点を探ることで正解に至る道がありました。


 ではその、そもそも回答者を困惑させている堂々巡りの原因となっているものは何か。つまりこの設問で回答者を一番迷わせている原点は何なのかと、改めてそこに立ち返ってみますと、それは「善人は生き延び、鬼は死んだ」と、その結末が普通に考えられるものとはまったく逆の結果になっているということです。
 そうです、前問ラクダの競争では逆転の発想が正解に導いてくれましたが、この設問でも、普通に考えられる結末とは逆の結果になっているところにこそ、この問題を解く手がかり、突破口があるのではないかと考えてみるわけです。

 つまり「善人が生き延び」と「鬼が死ぬ」という厳然とした結末に対して、それがどんな状況のもとで起こるのかを追求してみたらどうか、ということです。
 そんなことは初めからこの設問の命題であり、改めて言われるまでもないと、またまたお叱りの言葉が聞こえてきそうですが、これらを突破口として認識するかどうかで、解答への道順が違ってくるということです。

 つまり、設問にある条件のもとでは、最初から善人が助かる術はないと考えてしまう点がネガティブな方向へと導いてしまう岐路で、まずはその考え方を改め、この条件があるからこそ善人は助かるというふうに、逆に考えてみたらどうか、という示唆です。

 そこで、設問で提示されている条件、
 条件1. どの番号の井戸水にも毒が入っている。
 条件2. にもかかわらず、番号の小さい井戸水を飲んだあと、それより大きい番号の井戸水を
       数分以内に飲めば、大きい番号の井戸水は解毒剤として働く。
 条件3. しかし、一番大きな番号の井戸水・7番は鬼しか利用できない。

を見てみますと、その中で善人が生き延びる唯一の方法は、条件2に凝縮されていることがわかります。

 そこでこの条件2に、もう1つ先ほど見た「相手がどう考えるかのところを詰めていけば、何かがわかってくる」を加味して、しばし思案してみます。
 まず、善人は7番の井戸水を用意できないことを、鬼も善人も知っています。したがって、鬼が善人に飲ませる井戸水は7番か6番の井戸水のはずである、と善人は考えることになります。

 ここで逆転の発想です。その発想とは、善人にとって、この7番はもちろん、6番も毒水であり、条件3によって、善人はそれらを解毒する井戸水を用意できないというふうに考えるのではなく、善人が助かるために、逆にこれらの毒水が解毒剤となるようにすればいい、というふうに考えるのです。

 そうです。そのためには、あらかじめ善人は1番の井戸水を用意しておくのです。そして鬼の指定したコップの水を飲む前に、この用意しておいた水を飲み、そのあと直ぐに鬼の水を飲めば、鬼がたとえどの番号の井戸水を用意しようとも、鬼の水が解毒剤になることになります。

 いや待てよ、鬼がどの番号の井戸水を用意しようとも、というのは正しくない。「今のような案を善人が考えるかもしれない」と、鬼がその裏をかいて1番の井戸水を用意していたらどうするんだ、との声がここで聞こえてきそうです。
 まさしくその通りで、この設問の意図する大事なところは、「相手はどのように考えるか」を考慮しなければならない論理思考の問題だということです。
 したがって「善人はどのように考えるか」を鬼が思案して、このような作戦行動を鬼が取るかもしれません。その結果、善人は自分の1番の井戸水を飲んだあと、また鬼の用意した1番の井戸水を飲んだとしても1番の毒水を飲むだけに終わり、解毒効果がないので、結局、善人は助かりません。

善人

 善人は万全を期さねばなりません。そこで善人はさらに2番の井戸水も用意しておくのです。
 そして、鬼の指示したコップの水を飲む前に、まず用意しておいた1番の水を飲み、そのあと鬼の水を飲む。そして再度1番の水を飲み、そのあと直ちに2番の水を飲むのです。そうすれば、たとえ鬼が指定したコップに1番の水が入っていたとしても、最終的には1番の後に2番の水を飲んでいるので、助かることになります。
 もちろん、鬼の指定したコップに7番の水が入っていたとしても、この方法を取れば7番の水で解毒された後、再度飲む1番の水の毒は、2番の水で解毒されることになります。

 では次に、「鬼が死んだ」という課題です。
 なんと言っても鬼は、最初から解毒という観点で善人よりも優位な立場に立っているわけで、鬼は自分が助かるためには、一番の解毒効果を持ち、自分しか利用できない7番の井戸水を用意しているはずです。
 たとえ善人がどの番号の井戸水を飲ませようと、そのあとでこの水を飲めば助かります。

 ところが、それでも命題では鬼は助からなかったということです。それは一体どういうことなのか。しばし思考。
 そうです。やはりここでも逆転の発想をするのです。この場合、7番の井戸水は解毒剤としてではなく、毒薬として働いた、として考えるのです。

鬼

 このように考えて、この7番の井戸水が逆に毒薬として働くとしたら、その前に飲む水は1番から6番の井戸水ではない、ということになります。つまりそれ以外の水、通常の生活水のような水ならば、結末は命題に合致します。
 かくして善人の作戦とは、通常の生活水のような水を用意して、それを指定して鬼に飲ませたと考えればいいということになります。

 前述のようにこの設問は、相手はどう思っているかを考えた上で、どのような行動を取ったらいいかという論理思考の問題です。アメリカではこの種の面接試験問題が多くの企業で出題されています。

 その根底にある出題背景とは、受験者の論理思考による戦略能力を見ようとするものです。競争相手の多くいる今日のビジネス社会で、どのようにして相手に対する優位性を維持していくのか、技術もさることながら、最終的に勝敗を決めるものは戦略や戦術などが大きな部分を占めることから、このような設問への回答の仕方を見ることによって受験者の頭脳の働きを見ようとしているものです。

 それでは設問90の解答です。


正解 正解90  善人はあらかじめ、生活水のような普通の水と1番の井戸水、さらに2番の井戸水と、3種類の水を用意しておく。そして決闘がはじまったら、鬼には普通の水を飲ませる。また善人は、まず用意した1番の井戸水を飲み、そのあと鬼の指定した水を飲み、またそのあと再度1番の井戸水を飲んで、さらにそのあとすぐに用意した2番の井戸水を飲む。

 では、その出題背景を考えながら、次の設問を考えてみてください。


問題 設問91  地球よりも月で重くなるものは何か。


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 ビル・ゲイツの出題問題に関しては、HOW WOULD YOU MOVE MOUNT FUJI ? (Microsoft’s cult of the puzzle. How the world’s smartest companies select the most creative thinkers. )By William Poundstore の原書や、筆者の海外における友人たちの情報を参考にしています。
 また連絡先不明などにより、直接ご連絡の取れなかった一部メディア媒体からの引用画像につきましては、当欄上をお借りしてお許しをいただきたく、よろしくお願い申し上げます。

執筆者紹介


執筆者 梶谷通稔
(かじたに みちとし)

テレビ出演と取材(NHKクローズアップ現代、フジテレビ、テレビ朝日、スカパー)

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