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あなたはビルゲイツの試験に受かるか?
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その100

道を聞く質問の仕方を考える

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 当連載も100回目を迎えました。
 その内容を振り返ってみますと、しっかりとした論理思考が要求されているものや、フェルミ問題なども含めてその思考課程を見ようとしているもの、あるいは枠にとらわれない思考や柔軟性、物理や数学に基礎を置いた幅広い考え方とその知識、創意工夫や創造的問題解決能力などなど、そのジャンルはバラエティに富んでいて、いわゆる地頭力を見ようとしているものでした。
 今回はその100回目にふさわしい問題として、この設問を取り上げました。

 では、解説に移ります。

問題 設問100    あなたはA地点からB地点に行かなくてはならない。そこに到着できるかどうかは知りません。どうしますか?

図1(A地点、B地点)

 まずこの設問を見た瞬間に、いったい何のことか、何を言っているのか、さっぱりわからなかった方たちも多かったのではないでしょうか。
 そこに到着できるかどうかも知らないで、それでもB地点に行かなくてはならないとはどういうことなのか、質問の形態を成していないのではないかと。

 「ヒントとしてこの問題は、グーグル社の出題であることを背景に考えると解け易いかもしれません」とのコメントを、ちょうど前号のこの設問欄のすぐ前に残しておきましたが、グーグル社の面接試験問題の中には、見た瞬間、わけのわからなさで面食らうものや、その意図がさっぱりわからないものなどが、ときに出題されます。

 たとえば、設問内容の正確を期するために原文とともに3つほど、その例をあげますと、 図2(人)
往来する検索の量の季節変動を予測できる方法についての俳句を書け。
  (Write a haiku describing possible methods for predicting search traffic seasonality.)
このスペースは意図して空欄にしてある。空虚感が増すような何かで埋めてください。
  (This space left intentionally blank. Please fill it with something that improves upon emptiness.) 図3(人)
次のうち、Googleの何よりも大切な哲学を表現しているのはどれか?
  A) 私はラッキーな気分だ。
B) よこしまになるな。
C) あ、それならもう直したよ。
D) 食べ物から50フィート以上離れるな。
E) 上の全て。
  (Which of the following expresses Google's over-arching philosophy ? 図4(人)
  A) I'm feeling lucky.
B) Don't be evil.
C) Oh, I already fixed that.
D) You should never be more than 50 feet from food.
E) All of the above.)
などです。

 IT分野に進む青い目の受験者の中には、俳句とは何かすらも知らない若者も多くいるはずなのに、検索量の季節変動を予測できる方法を俳句にせよ、だと? 我が国の俳人も絶句しそうな問題で、残りの2題についても、内容の分野は違うものの、大同小異ではないでしょうか。

海外の新聞(一部)

 グーグルの各部門や事業所単位で作られているこれらの面接問題は、本来の意図を離れて、問題を作る出題者自身の趣味趣向が織り込まれている感も否めなく、昨年の2013年、6月20日付けのニューヨークタイムズには、グーグルの人事担当上席副社長を務めるLaszlo Bock氏がそのインタビューに応え、グーグルの面接試験問題の中には、質問者の自己満足に終わるだけのものがあるようだ、と述べていましたが、この3例はその種の範疇に入るものではないでしょうか。

グーグルの人事担当上席副社長 Laszlo Bock氏

 もちろんたくさん出題されている問題の中には、一見、この類のものではないかと思ってしまうような設問もありますが、実は、冒頭で述べたいわゆる地頭力を見ようとしているものが多いのです。

 たしかにこの設問100も、一見して面食らってしまうような問題であることから、質問者の自己満足に類するものではないかと疑ってしまいそうですが、実はしっかりとした出題意図や背景が込められています。
 これは出題者側が回答者にそれとわからないようにと、出題文をまぎらわしく出しているために何がなんだかわからないような印象を与えてしまっているのです。
 そのへんのことが一番よくわかるのは、解答を見ますとはっきりとしてきますので、まずは解説に入ります。

 まず、B地点に行かねばならないという部分はわかりますので、解答の1つにはスマートホンで地図検索をする、などというのがありそうです。たしかにこれで間違ってはいませんが、これこそ誰もが簡単に答えられる問題で、受験者の深い思考を見るための面接試験でわざわざ出題するような設問ではなく、出題者側はそんな解答を望んではいないはずです。電話を利用して聞き出す、という手もありますが、同様です。
 また、これらの機器がその場で使えなければならないという条件のもとで成り立つ解答ですから、一般的な解にもなりません。

図5(道に迷ってる人)

 では一般的に考えてみるとどうなるか。まず、その経路は1つに限らず複数通りあるのが一般的だ、ということでしょう。
 そして、あなたが目的地に行くとして、そこへの道がわからなくなったとしたら、どうするか考えてみてください。すると、おそらく十中八九は、近くにいる人に道を尋ねるはずです。そしてこの場合、大方はうまくいきます。
  なぜか。それは皆さんの経験からおわかりのとおり、たいてい道を聞くときは、あなたが目的地の近くまできていて、その道を聞かれる大方の人は、その場所をよく知っている土地の人だという場合が多いからです。

 しかし当設問では、あなたが目的地のB地点の近くにきていることなどには、一切、言及していません。
 でもここで、ダメだとあきらめないことが肝心なのです。せっかくいいところまで考えてきているからです。

 そこで「またまたビル・ゲイツの言う「よ〜く考えよ」です。
目的地のB地点の近くにきている人をbとすると、このbがこうして道がわかるということは、今度はbの近くにいる人cが、bに聞けば道がわかるということになります。さらにcの近くにいる人dがcに聞けばわかり・・・と、順々とわかっていくことになります。

 ということは、この逆を順々に辿っていけばB地点への道がわかるということです。つまり、たとえあなたがb、c、d・・・からずっと離れていても、b、c、dの返事があなたに帰ってくるような質問の仕方を考えればいいということになるわけです。
 ではそのような質問とは? ここが論理思考を要するポイントです。ここでよ〜く考えれば、次の人からまた次の人へと「入れ子」のように質問を繰り返すという案が出てくると思います。

 「入れ子」については、当連載のその49回・村の女王で、そのよい例を見ましたが、当設問100の場合はこうなります。
 つまり、あなたは周りにいる人に、「B地点への道を知っていれば教えてください。知らなければ、あなたの周りにいる人に同じ質問をして、B地点への道を知っている人がいれば教えてください。いなければその周りいる人にも、彼らの周りにいる人たちに対して同じ質問をするようにお願いしてください。」と尋ねればいいことになります。
 こうすることによって、やがてはB地点への道順が順ぐりに、あなたのもとに伝わってくることになるわけです。

 そこで前に述べた「この問題は、グーグル社の出題です」というヒントですが、なぜこのようなヒントを出したかと言いますと、実はこのやり方は、情報をやり取りするインターネットシステムに似ているというよりも、そのものだからです。

 ご存じのとおりグーグル社は、インターネット上で目的の情報がどこにあるか、その情報の住所を探し出す検索ソフトの開発で起業した会社です。
 設問文の中で、「そこに至る道順はわかりません」とか「そこに至る経路は知りません」といった表現を使わないで、「そこに到着できるかどうかも知りません」などと、一見、わけのわからないような表現にしたのは、グーグルを受験するようなIT分野に強い応募者に対して、経路とか道順という言葉を使えば、すぐにインターネットの仕組みを連想させ、解答が簡単にわかってしまうのではないか、と危惧し、そこで意図的にぼかした表現にしたのではないかと思われるのです。


 ちょうどいい機会なので、ここでこの設問と関連する部分としてインターネットの仕組みにつき、ごくごく簡単に解説してみます。
 検索では、その目的情報が格納されているネットワーク上の住所(サイト)を見つけ、結果、その住所のところまで行って情報を引き出して閲覧することになります。またメールシステムは、相手の住所とメールの送受信をする機能ですが、ネットワーク上であるがために、自分と相手の住所間の経路は幾通りもあることになります。
 このインターネット上のネットワーク網に直接接続されていて、ホームページを蓄えていたり、メールの郵便局の役割を果たしているコンピューターをここではサーバーと呼ぶことにします。あなたのプロバイダーはこのようなサーバーを設置しているところです。
インターネット上でメールの流れる仕組みのフローチャート
 またここでは、これらサーバーは情報の経路を管理するルーターも内蔵している一体型として説明しますと、これら個々のサーバーは、インターネット上の全ての経路について把握しているわけではなく、互いに自らと隣りあって繋がっているサーバーだけしか認識していないのです。
 したがって自分と直接繋がっていない遠くにあるサーバーがどこにあるかはわからないわけで、結果、これら直接繋がっているサーバー同士を順繰りに辿っていくことにより、やがて目的の住所を管理しているサーバーに辿りつくという仕組みになっています。
 この仕組みが当設問の解答と非常によく似ていることがおわかりだと思います。
なぜ、個々のサーバーがインターネット上の全体の経路について、あらかじめ把握していないのかと申しますと、サーバーの数が膨大であるばかりでなく、新規あるいは削除サーバーの更新などに伴うネットワーク情報管理が煩雑極まりないこと、また途中の経路が混雑していたり、トラブルで使えなかったりしたときに、あらかじめ固定的に設定していては、その都度、臨機応変に対処することも、極めて困難になるからです。
 そうは言っても、目的の住所に辿り着く経路は幾通りもあり、その都度順繰り辿っていくのは時間がかかってしょうがないのではないかと思われるかもしれませんが、たとえば、グーグルで「アメリカ」という言葉を検索すると、1秒以内、たったの0.33秒という瞬時に、その資料の載っている87,600,000件もの住所を探し出してくれる現状なわけですから、かかる時間は誤差の範囲にも入らないということです。
 また、経路がたくさんある中で、どの経路を選ぶかは、リンクの帯域幅や信頼性などに重みを付けて算出した値を使うものもありますが、通常は経由するサーバーの数が最も少ない経路を選びます。
 またメールは或る単位の長さにブツ切りにされて、つまり小包(パケット)として発信され、ネットワーク内をバケツリレーのように転送されて、相手の宛先まで各小包は一緒にまとまって運ばれるときもあれば、経路の混雑状況によりそれぞれバラバラに異なった経路を通って相手に届くこともあります。バラバラで到着したメールは到着先のサーバーで、もとの形に組み立てられて復元されるようになっているわけです。
 なぜ、ブツ切りの小包の形にするかといいますと、回線を効率よく使えるからです。それはアナログの電話回線の場合を想像していただければ分かりますが、その回線が通話中の場合、アナログでは独占されていて他の人は使えません。
インターネットを購入する人
 ところがインターネットのようにデジタルで回線を使う場合には、到着後、ブツ切りにされた情報を復元すればいいだけですから、同じ回線に何人ものブツ切りにされた情報を同時に乗っけて送ることができるわけで、このようにして同じ回線でも同じ時間帯で何人もの人の非常に多くの情報量を取り扱うことができるということなのです。
 ようやく一般にもメールやホームページなどでインターネットという名前が普及し始めた2000年ころに、電気店にきて「インターネットをください」と注文をするお客さんがいたようです。今では笑い話になってしまいますが、当時、インターネットという「モノ」があって、それを買えば使える、と思う人もいたのでしょう。

 さて、当設問の背景は、少し戸惑うような設問という印象を受けても、落ち着いて問題にとりかかれるかどうか、その上、本稿で解説したような論理思考によって入れ子のような質問にすればいいという発想ができるかどうかを見ようとしているものです。
 また、特定の住所に至る道順、経路を見つけ出す問題ということから、インターネットの基礎原理を理解しているかどうか、
もまた見ようとしているのかもしれません。

 それでは設問100の解答です。


正解 正解100  あなたは周りにいる人に、「B地点への道を知っていれば教えてください。知らなければ、あなたの周りにいる人に同じ質問をして、B地点への道を知っている人がいれば教えてください。いなければその周りいる人にも、彼らの周りにいる人たちに対して同じ質問をするようにお願いしてください」と尋ねればいい。

 では、その出題背景を考えながら、次の設問を考えてみてください。


問題 設問101  ここに、形も大きさも外見はまったく同じ円柱形の鉄が2本あります。1本は永久磁石で、もう1本は磁石に吸いつけられるが、それ自体は永久磁石ではない、いわゆる磁性を持たない鉄です。道具は一切使わないで、どちらが永久磁石なのかを見分けるにはどうしたらいいでしょう。

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 ビル・ゲイツの出題問題に関しては、HOW WOULD YOU MOVE MOUNT FUJI ? (Microsoft’s cult of the puzzle. How the world’s smartest companies select the most creative thinkers. )By William Poundstore の原書や、筆者の海外における友人たちの情報を参考にしています。
 また連絡先不明などにより、直接ご連絡の取れなかった一部メディア媒体からの引用画像につきましては、当欄上をお借りしてお許しをいただきたく、よろしくお願い申し上げます。

執筆者紹介


執筆者 梶谷通稔
(かじたに みちとし)

テレビ出演と取材(NHKクローズアップ現代、フジテレビ、テレビ朝日、スカパー)

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