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あなたはビルゲイツの試験に受かるか?
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その43 隠れた規則性の見極め
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 この3月11日に米経済誌「Forbes」が発表した2009年の世界億万長者番付では、2007年まで13年連続の1位で、昨年は3位だったビル・ゲイツが、再び首位に返り咲きました。
  世界的な金融危機の影響で多くの億万長者の推定資産額が減少し、昨年の2008年1位だった投資家のウォーレン・バフェット氏は、2位に後退し、昨年2位だったメキシコのカルロス・スリム・ヘル氏は3位に後退です。

 当欄「その36」の冒頭でも紹介しましたように、ビル・ゲイツは昨年の7月に第一線を退き、世界の貧困をなくそうと自分の慈善事業財団に自分の資産の95%以上を寄付する形にして活動を始めていますので、このような観点から見てランキング上位であることは望ましいことと思います。ちなみに日本人の中で1位はユニクロの柳井正氏で、世界ランキングでは76位でした。

 さて、前回のミシシッピー川の流水量の設問には面食らった方も多かったと思いますが、小型フェルミ推定の問題として、設問にどのようにアプローチをして解いていくか、応募受験者の思考過程を見ようというものでした。
 この4月からNHK総合テレビで、実際に企業が出題した問題やその出題企業の人事当事者が出演する「ソクラテスの人事」という新番組が始まりますが、当欄その31で説明しましたように、シリコンバレーに起源を持つ思考パズル形式による面接試験は外資系企業によって日本に持ち込まれ、今や日本の企業にも新風を吹き込む形で、今風の地頭の発掘に格好の機会を与えつつあるようです。
 日本の「考える頭脳」「創造する頭脳」「問題解決頭脳」作りに、どれだけでも貢献する番組となることを期待しています。

 では、今号の設問は何を意図しての出題でしょうか。解説に入ります。


問題 設問43 ある学校で、全生徒が自分のロッカーの前に立っている。このときすべてのロッカーの扉は閉まってる。
最初の笛の合図で、生徒はすべてのロッカーを開けます。次の笛の合図で1つおきにロッカーを閉めます。ここで、2番、4番、6番・・と閉められます。さらに次の合図では、2つおきにトグります。トグるとは、開いていれば閉じ、閉じていれば開くという意味です。3番、6番、9番というふうにトグるわけです。第4の笛の合図で、ロッカーを3つおきにトグり、第5の合図で4つおきにトグります。以下同様です。話を簡単にするために、ここではロッカーは全部で100台だけとします。100回目の笛の合図では、100番のロッカーについている生徒だけが、自分のロッカーをトグります。この結果、何個のロッカーが開いているか。

ロッカー

 トグる(Toggle)などという日本語はありませんが、スイッチのつまみを上下するとか、オン、オフにするとかのときに使われる英語です。
 さて、まずこの設問に接し、皆さんが最初に受けた印象とはどんなものでしたか。毎回違う飛び飛び間隔で、開けたり閉じたりするロッカーが100個もあるというところから、おそらく皆さんの中には考えることすら、いやになると感じた人もいると思います。

 そこで今回の最初の突破口、糸口、手がかりを見つけ出す過程ですが、これは面接試験の場で出されている問題だという点を考えることです。
 つまり複雑でややこしい計算を必要とするような問題なら、どんなに優秀な頭脳の持ち主でも解答を得るまでにかなりの時間がかかり、とても面接時間内に終わらない受験者ばかりになってしまうであろうということと、またこのような設問では面接官への質問などのしようがなく、その間、受験者との会話なども生じ得ない面接官は、次第にしびれを切らさざるを得なくなってしまうだろう、ということなどを想像してみることです。

 それでもルールにしたがって、1ステップずつ順次トグるのをロッカー1からロッカー100まで具体的にやっていけば、もちろん解答には辿りつけますが、前述のように面接官はそこまで待っていられるほどヒマではないことと、また、そんな解き方は見たくもないと言われてお仕舞になるはずです。
 したがって、まず“見かけなんかには、だまされないぞ”との思いがこの場合の突破口であり、その点に気がつけきさえすれば、もはや半分は解けたも同然だと思います。
 というのも、一見複雑そうな問題に見えますが、対象物が横に並んでいてそれに規則正しいルールが課せられているわけですから、やはりある種の法則に則った数列の世界の問題として解答が出てくるはずだと理解でき、それならば、100もあるロッカーの数というのは一種の目くらましで、最初のいくつかを見ていけばその法則が出てくるはずだ、と考えればいいわけです。

 最初、解くのがいやになるとの感を少しでも持った方は、おそらく目くらましのような仕掛けについついひっかかってしまい、笛の合図の都度、1番から100番までのロッカー全部を対象にして見ていかなければならない、と考えた人だと思います。
 しかしそのルールをよく見れば、笛の合図ごとに2つおき、3つおきという具合にトグる間隔が増えていきますから、初めのほうですでにトグった間隔内にあるロッカーは、もはやトグる必要がなく、そのままにしておいていいわけです。
 したがって、このことから当設問は見かけよりもずっと易しくなり、だからさらに最初のいくつかを見ていけば法則も見えてくるはずだということです。

 この種の問題は暗算でやるよりも、メモ上に書いてみて進めるほうが早くて確実です。これまで出題された設問をみますと、中には途中でメモや走り書きをしながら計算をするといった場面も想定されます。したがって面接会場には筆記用具か白板あるいはフリップチャートなどが用意されているはずですが、もしも用意されていないならば、面接官にメモ用紙などを頼めば必ず応じてくれるはずです。

 では、トグるごとに各ロッカーに○印を付けながら、最初の1番から10番ロッカーまでをやってみて、法則の有無を検討してみます。トグることがポイントですから、まずこの際、開閉を気にしないで、とにかくトグるロッカーだけを見ていきます。
 1回目の笛で全ロッカーに○印が付き、2回目の笛では、2、4、6、8、10番ロッカーに○印、3回目の笛で3、6、9番ロッカーに、4回目は4、8番ロッカー、5回目は5、10番ロッカー、6回目〜10回目はそれぞれ自分の番号の回でだけなので10回目が終わったところで、○印の付いたロッカーは表1のようになります。

表1

 当然、この後ロッカーが100個あるとして続ければ、11回目の笛では11、22、33、44・・・番目の、12回目は12、24、36・・・番目のロッカーだけが関係することになります。
 しかし10個のロッカーで何らかの規則性が見つかれば、それで解答が導き出せることになりますから、10個の内容をじっくりと見てみます。

 各ロッカーに印がつきましたから、ここで初めてその開閉状態がチェックできます。最初はすべてのロッカー扉が閉まっていますので、1回目の動作、つまり最初の○印で開き、2回目の○印で閉じ、3回目の○印でまた開き・・・となっていくことから、動作の○印が奇数回なら開いており、偶数回なら閉じていることになります。
 結果は表2のように1番、4番、9番のロッカーが開いています。前述のように、11回目以降の笛が鳴っても10番目までのロッカーには何の影響も与えませんので、ロッカーの1、4、9番扉は開いたままで固定です。

表2 表3

 さて、ここまできて1、4、9の数列を見れば、もはや大部分の皆さんは気づかれるはずで、これらは12、22、32というきれいな形で表せます。ですからあとはこの形が続くと考えればよいわけで、100個のロッカーの場合はこれらが100を超えない範囲で考えればよく、42、52、62、72、82、92、102と、表3のようになることがわかるわけです。
 したがって、扉の開いているロッカーは1、4、9、16、25、36、49、64、81、100番の全部で10個のロッカーということになります。

 もちろん出題者側は1、4、9の数列を見ただけで、12、22、32のような規則性を発見する受験者を望んでいるわけですが、次の1、4、9、16まで進めればもはや誰でもこの法則がわかると思います。
 しかし、どうもすっきりしない、ここに現れる二乗の必然性がわからない、という方もおられるかもしれませんので、その解説を表4で試みました。


表4

 トグられるロッカーというのは、自分の番号を割ることのできる整数です。これをその番号の因数と呼びます。ロッカー12番だったら、12を割ることのできる整数1、2、3、4、6、12がその因数で、言い換えれば、その番号のときにトグることができ、その回数はこの因数の個数になりますから、全部で6個の偶数回です。
 また、12をそれぞれの因数で割ると1x12、2x6、3x4のように、すべての因数を1回使い2つの因数同士の掛け算になります。

 ところが因子が奇数個の場合は、そうはいきません。どれかの因数を2回使わなければなりません。具体的に言いますと、問題の扉が開いているロッカーでは奇数回のトグりが必要ですから、因数の数も奇数になります。ロッカー9番では1、3、9の3つの因子です。12の場合と同様に、この場合のそれぞれの因子で9を割ると1x9、3x3ですが、奇数個ある因子の真ん中に位置するこの3という因子だけはどうしても2回使わないと9というロッカー番号にならないということです。
 これが二乗が必要となる背景です。テニストーナメントの設問32や9個の硬貨を量る秤の設問33のときと同様、この問題の場合も、開いている扉は1から始まる整数の二乗という形で一般化をすることができましたから、どんなにロッカーの数が増えても正解までには時間がかからないということです。

 一見、複雑そうな印象を受け易い設問ですが、そこは落ち着いて受け止める資質の受験応募者か、そしてその中でもいかに早く問題の規則性を見つけ出す能力の持ち主かを見ようというのが、設問の背景です。

 では、解答です。


正解 正解43 10個のロッカー

 それでは、出題の背景を考えながら、次の設問をやってみてください。


問題 設問44 盲人用のスパイス置きの棚を設計しなさい。


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 ビル・ゲイツの出題問題に関しては、HOW WOULD YOU MOVE MOUNT FUJI ? (Microsoft’s cult of the puzzle. How the world’s smartest companies select the most creative thinkers. )By William Poundstore の原書や、筆者の海外における友人たちの情報を参考にしています。
 また連絡先不明などにより、直接ご連絡の取れなかった一部メディア媒体からの引用画像につきましては、当欄上をお借りしてお許しをいただきたく、よろしくお願い申し上げます。

執筆者紹介


執筆者 梶谷通稔
(かじたに みちとし)

テレビ出演と取材(NHKクローズアップ現代、フジテレビ、テレビ朝日、スカパー)

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