連載

あなたはビルゲイツの試験に受かるか?
バックナンバー

その74

最終状態を考えてみる

前号へ
  次号へ  

 これまでに70問以上の設問に挑戦してきましたので、その1つの区切りとして今までに明らかとなった解法の手がかりや糸口、あるいはその突破口などの対処法をまとめてみたのが、前問の解説前に見ていただいた9つの問題分野とそれに対する17項目の対処法でした。
前問は数量が多く扱われている問題でしたので、さっそくその中の項目の1つ、「小さな数字や量で単純化、シンプル化してやってみる」をトライしてみましたが、結果として該当した項目は、意外にも「設問の中に解答そのもののヒントがある」というものでした。
最初からうまくいく場合もあれば、このように、最初は空振りとなる場合もあります。しかし最初がダメでも、ダメとわかった時点でしばしば次ぎに試す項目のヒントが得られ、それによって正解へと導かれることが多々ありますので、この9つの問題分野とそれに対する17項目の対処法は、是非、念頭に入れておいていただくことをお薦めいたします。

 では、今号の問題はどうでしょうか。

問題 設問74  ある映画の試写会に100人の特別な人だけ招待されることになり、彼らはすでにその開場を待って入り口に全員並んでいます。そしてその場で1番先頭に並んだ人は1番の座席番号のチケットを、2番目に並んでいる人には2番の座席番号のチケットをという具合に、並んだ順番に同じ座席番号のチケットが渡されました。そして開場。ところが、先頭に並んだ1人目の招待客が自分の座席番号を無視して適当な場所に座ってしまいました。他の人たちはチケットどおりの座席に座っていきますが、自分の座席を奪われてしまった人は、結局、空いている座席に座らざるをえません。では、最後の100人目の人が、チケットどおりの座席に座れる確率はどれくらいでしょう?

試写会会場

 まずこの設問を見たとき、皆さんはどのようになことを考えましたか。
例えば、1番のチケット持った招待客が2番の座席に着き、2番のチケットを持った招待客が3番の座席に、3番チケットが4番座席にと、順繰りに座っていく場合もあれば、そんなにうまく順番に座っていくわけがなく、最初からか、あるいはどこかの順番からでたらめが生じるはずだから、着席状況は千差万別の組合せになっているはずで・・・と、途端に迷路に入ったように感じた方たちもおられたことと思います。

 特に、数学が得意な方たちの中には、咄嗟に100の階乗(100!)という順列の組合せがピンときて、その組み合わせの中で100番チケットの人が、順列の100番目にくる確率は?と考えた方もおられたかもしれません。

図

 しかし、この設問の場合はどの座席にも自由に座っていいというわけではなく、その自由が許されるのは自分のチケット番号の座席が誰かに座られてしまっているときだけで、もしも座られていなければ、自分の座席に必ず座らなければないという制約があるため、100の階乗という組合せにはならないのです。

 では、前号でまとめて解説しました各設問の手がかりや糸口、あるいはその突破口となる対処法を思い出していただき、当設問の場合はどうかをさっそく試してみたいと思います。

 まず最初に当設問に該当するものとして、
 「複雑に見える問題、数量が多い問題、読んだだけで気後れしてしまう問題、思考が発散してしまいそうな問題、長々とした文章の問題など」
が思い当たるのではないでしょうか。
そしてその中に出ている7つの対処法のうち、真っ先に試してみたくなるのは、やはり
 ・ 小さな数字や量で単純化、シンプル化してやってみる。
でしょう。

 まず具体的に始めるにあたって分かり易いのは、頭の中だけで考えるよりも、図にしてやってみることです。
そこでこの対処法の「小さな数字でやってみる」にしたがって、最少ケースの招待客が2人で座席が2つだけの場合を考えてみます。
すると、あることに気づくと思います。その1つは「ところが、先頭に並んだ1人目の招待客が自分の座席番号を無視して適当な場所に座ってしまいました」という問題文の中の「適当な場所」をどう解釈するかです。

 普通ならば任意の場所ということで、座席1から座席100までのどの席でもと解釈するのですが、しかし「ところが、・・・」と断ってわざわざこのような問題をだすはずがないと受け止めて、先頭の客は座席1には座らないという前提でもって解釈をする仕方です。
出題者側は前者の解釈で出したようですが、回答者の中には後者の解釈をする人がいてもおかしくありません。
そこで本稿では、この両方の場合はどうなるかをみようと思います。最初は前者の場合を、後のほうで後者の場合をみていきます。

 さらにあることに気づくもう1つとは、むやみやたらにやってみてもその場かぎりで意味がなく、人数を3人、4人と増やしていく課程で、もっと普遍的に共通して考えていけるようなベースになるやり方はないものだろうかということです。
そのベースとして気づくことは、座り方には千差万別あるものの、そのパターンは限られるということ、さらに先頭から順番に入場という順序が決まっていることから、一層絞られてくるのではないかということです。

 このパターンとは、座り方の種類です。つまり座っている席が正しい状態かどうかからみた各席のパターンです。
例えば、
0 : 着席が間違っている座席
1 : 自分の番号に正しく座っている座席
とした場合に、論理的に考えられる2つの席のパターンは、

論理的なパターン

の4つです。 こうすれば、席が3つ、4つと増えていっても、新たなパターンへの対応が簡単にできます。

図の意味

図1

 さらにこれは論理的なパターンであるため、実際には起こりえないパターンも含まれていることから、考えられるケースを絞っていくことができるということです。
例えばこの2つの席の中で、一方が正しく、もう一方が間違っているということはあり得ないので、パターン2とパターン3は除外できるということです。
パターン1は、先頭客1が座席2に座り、客2が座席1に座るケースで、これを客1→客2→客1という表現を使って図にしたのが図1です。

 こうすると、起こり得るケースはパターン1とパターン4の2つであり、その2つの中で、最後の客2が自分の座席に正しく座っているケースはパターン4の1つであることが一目でわかります。
したがって、ここで起こり得るケースをA、最後の客が自席に座れるケースをBとすれば、設問が求める確率 B/Aは 1/2 と出せます。

図2

 このパターンを使えば、人数と座席数がどんどん増えても、問題なく設問の問いに答えられるということです。
さらにその数を使って、数式でその確率を数値化できるということも、このパターン化にしたことから得られる大きなメリットです。
以下、3人の場合、4人の場合と見ていった結果が、それぞれ図2と図3です。また、図2や図3の中で*印のコメントを付けてありますが、客の各座席への入り方が他にもあると考えるのは間違いで、座席を選ぶ順は1つしかありません。

 ここで確率を数値化した数式のことですが、いきなり図1で2人の場合の数式として、「この1/2の確率を2人の数字2を使って、式で表現すれば 1/2 = 2²-²/2²-¹と表せる」とあります。
図3
最初からこの数式をどうやって導き出すのかわからないかもしれませんが、3人の場合の確率2/4、4人の場合の確率4/8と並べていけば、自ずと表1のように一般化した形の数式として導かれることがわかります。結果、100人の場合の確率は1/2となります。

 さて、皆さんには内容がわかり易いよう、一応ここまで、少ない人数から始めた具体的なケースを見ていただきましたが、面接試験問題の出題者が時間も限られている中で、はたしてここまで踏み込んだ解答を求めているのか、と中には疑問視された方もおられたかもしれません。
表1
そうです。ここが重要です。そう思うことにより、ぐっとスマートな正解に近づくということです。

 つまり、面接の場ですから複雑な計算をしなくても、スマートな解法がありますよ、だから論理思考のできる地頭力があれば簡単ですよ、と暗に言っているということで、それに気づくことです。
複雑な計算をしなくてもいいということは、具体的に1番や2番、あるいは3番チケットの客とか、座席30とか座席69とか、個々に細かく考えなくてもいいということです。
その上で100番チケットの客のことを聞いていると、考えてみてください。

 100番チケットの客のことなど、言われなくてもそんなことは当初からわかっている、それが設問なんだからと、お叱りの声が聞かれそうですが、当設問の場合のように客観的な立場で見るとわかりづらいことも、主観的に見るとわかり易くなることもありますので、ここで100番チケットの持ち主があなた自身であるとして考えてみてください。あなたの確率はその前の状態で決まるということです。

 つまり、あなたの番になったとき、どの座席が空いているか鮮明になってくるのではないでしょうか。座席2があいているでしょうか。座席30が空いているでしょうか。座席69が空いているでしょうか。その座席番号のチケットを持っている人が、自分の前に必ずいるわけですから、空いているなどということは起こり得ません。

 つまり、座席2から座席99までは必ず埋まっていて、あなたの番になったときに空いているとしたら、先頭の客が間違えた座席1か、あるいはあなたの座席100のどちらかでしかない、ということです。
したがって、課題の確率は1/2、つまり最後の100人目の人が、チケットどおりの座席に座れる確率は50%ということになります。

 ではこの設問の手がかりや糸口、あるいはその突破口となる対処法は、前号でまとめて解説した各項目のどれに相当するのでしょうか。それは「最終図を思い描いてみる」になります。

図4

 それでは、さきほどの「先頭の客は座席1には座らないという前提でもって解釈した場合」はどうなるか、を説明いたします。
この場合だと、なかなかスマートな解法というわけにはいかないようです。そこで前に見ていただいたようなステップがあれば、一度にわかるということなのです。

図5

 客1が初めから座席1には座れないという条件のもとでは、図1、図2、図3の中で最後の行にある全員自分の座席に座っているケースが当てはまらないだけです。
したがって、このケースが1個抜けるだけになりますから、それを反映していけば、それぞれ図4、図5、図6のように、答は簡単に出るということです。
また数式も、それにしたがって表2の通りとなるわけです。計算していくと、人数が増えるにしたがって、限りなく1/2に近づいていくことがわかります。

図6
表2

 この設問の背景は、やはり論理思考ができるかどうかを見ようということです。たとえ少ない数でやり始めても、そのやり方次第では泥沼に入ってしまうことにすぐに気づき、地頭をフルに回転させて、そこから次に進むヒントや方法を見つけられるかどうかを見ようというものです。
一旦、前述したようなポイントに気づけば、解答は数秒で得られますから、スピードを見る設問でもある
と言えます。

 それでは解答です。

正解 正解74  100人目の招待客の座る番になったとき、空いている座席は座席1か座席100の2つしかない。したがってチケット通りの座席100番に座れる確率は50%。(100番目の客の前には、チケット番号2からチケット番号99を持った客がいるので、彼らは自分の番号の座席が空いていたら必ずそこに座る。したがって座席9が空いていたり、座席33が空いていたりするということなどはあり得なく、座席2番から座席99番までの席は必ず埋まっている。)
また、先頭の客が座席1には座れない条件を前提とした場合は、図4、図5、図6のような説明から入って、表2を示せばいいと思いますが、実際の出題は、前者の解答でOKとしています。

 では、その出題背景を考えながら、次の設問を考えてみてください。


問題 設問75  ロッククライミングの基礎的トレーニングを充分積んだあとで、あなたは専門家の先生とともに裏道を通って断崖絶壁の頂上へと連れてこられました。そこでいきなり先生からこう言われました。「登山ではいつ何が起こるかわからない。今、おまえはたった1人でこの垂直に切り立った絶壁を、このロープ(ザイル)を使って降りなければならなくなった。この絶壁の高さは120m、その真ん中60mの高さのところには足場とロープを縛り付けることのできるるハーケン(クサビ)が打ってある。もちろんここ頂上にもハーケンが打ってあるが、残念ながらロープの長さは90mしかない。ロープを切る必要があれば、このアーミーナイフ(折りたたみ式)を使ってもいいが、ロープの太さを半分に割いたりして今の太さを少しでも変えると、おまえがぶらさがったときには、たちどころに切れてしまう」と。さて、あなたはどうやって降りますか。
前号へ   次号へ  


 ビル・ゲイツの出題問題に関しては、HOW WOULD YOU MOVE MOUNT FUJI ? (Microsoft’s cult of the puzzle. How the world’s smartest companies select the most creative thinkers. )By William Poundstore の原書や、筆者の海外における友人たちの情報を参考にしています。
また連絡先不明などにより、直接ご連絡の取れなかった一部メディア媒体からの引用画像につきましては、当欄上をお借りしてお許しをいただきたく、よろしくお願い申し上げます。

執筆者紹介


執筆者 梶谷通稔
(かじたに みちとし)

テレビ出演と取材(NHKクローズアップ現代、フジテレビ、テレビ朝日、スカパー)

出版

連載

新聞、雑誌インタビュー 多数

※この連載記事の著作権は、執筆者および株式会社あーぷに帰属しています。無断転載コピーはおやめください

Page top