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あなたはビルゲイツの試験に受かるか?
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その128

まずはやってみる資質

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 スマイル曲線に現れた国際潮流現象に深く関係したホンハイやソフトバンクによる買収、さらにその資金調達に関連してソフトバンク・孫さんの投資、そして創業時における病による死の宣言など、連載その123の巻頭からずっと見てきていますが、この2016 年12月には孫さんとトランプ氏やプーチン氏との接触がマスコミを賑わしています。

 中にはたくましい商魂という観点から、それを見ている一部報道やコメントもあるようですが、彼が多くの国民の皆さんにもたらした忘れてはならない働きがあります。今回、この機会にそれをみていただこうと思います。

 次は2011年、孫さんの「志を語る」のスピーチ及びその記事からの抜粋です。
 『時は2000年の後半でした。ITバブルがはじけて、ソフトバンクの株価が約100分の1になってしまったときです。当然のことながら、株主総会は非難の嵐でした。ペテン師だ、バブル男だ、と。もっと直截的に、「犯罪者」「ヤマ師」「嘘つき」「泥棒」などと言う人もいました。資産を100分の1にされたら、腹が立たないわけがありません。その場で、僕は一生懸命に説明しました。ソフトバンクは縮小も撤退もしない、ネット事業にこれからも社運をかけて挑んでいきます。僕の志は、一切揺るぎのないものなのです、と。誠心誠意、自分の志を述べさせていただきました。すると徐々に空気が変わり始めたのです。そして総会の後半に次のように発言したおばあさんのことを一生忘れられません。

「私は、主人の残してくれた遺産、何十年も勤め上げていただいた退職金の遺産のすべてをソフトバンク株に投入しました。1000万円分です。それは孫さん、あなたの夢を信じたからです。あなたの夢と志を信じたからです。株価が99%下がって全財産の1000万が10万円になっちゃったんです。だけど悔いはありません。今日、あなたの話を直接聞いて、私はあなたの夢にかけて本当によかったと、心から思いました。私は、信じています。どうか頑張ってください」と。

 今もおばあさんの姿が頭に焼きついて離れません。株主の皆さんの3分の1以上が涙を浮かべ、ハンカチを口もとに当てていたことを覚えています。

 ソフトバンクをつぶすわけにはいかない。あわせてワシは何のために生まれてきたのか。ワシゃなんのために志立てたのか。志ってなんだったんだと改めて考えました。それはデジタル情報革命だろう。この革命のために人生を捧げてるわけだろう、ここで怯むわけにはいかん。

 そして世の中を見渡せば、日本は世界で2番目のGDPの国なのに、先進国の中でインターネットは世界一遅い。世界一料金が高い。日本のインターネット業界全部のために、日本のインターネットユーザー全部のために、この高い高い、世界一遅いってヤツを、世界一安くしてやろう、世界一の高速にしてやろう、と。ワシの人生よりそのことのほうが大切じゃ!

 すると、うちの役員が言いました。「ライバル会社や他社のインターネットユーザーもいるわけだから、ヤフージャパンのユーザーだけ安くしましょうか?」と。

バカモン!!そんなこまい考えでどうするんだ!日本国民が最終的に全部インターネットユーザーになって、全員がいつか、いつか、喜んでくれりゃあそれでええじゃないか。「でも社長、我々がやって、誰の努力でそうなったかなんて、後の人は忘れますよ」と。そう言われたので、ええじゃないか。名もいらん。金もいらん。地位も名誉もいらん、と。そんな厄介な男でないと、大事は成せない。こう言ったのは、あの幕末の西郷隆盛です。そのくらいの魂がないと、ひきちぎれるほどの情熱がないと、革命なんてできゃせん。そんな男は打ち負かそうにも負かせられないわけです。

 当時、うちはNTTさんが出してきた料金体系の5分の1で、8 割引です。そして世界最高速。NTTの4倍の速度。これを発表したんです。

 すると一晩で、申し込みが、100万件来た。が、そんなに用意してなかった。機材を。そんなに来ると思わんかった。そのとき、お客さんを半年以上待たせてしまってむちゃくちゃ言われました。詐欺師! どうしてくれるんだ! と。

 しかしお客さんの申し込みがそんなに来たのにNTTさんは回線をつながしてくれない。面倒くさいいろいろ手続きを言う。だからもう総務省に乗り込んでいって、担当課長にガーッと机叩いて訴えた。
 独占的にメタル回線を持って、独占的に局舎を持って、これはもうあきらかに独禁法違反で、あきらかに手続きがおかしい、と。
 もしもダメなら、100万人のお客様に申し訳が立たない。だからワシゃ灯油をかぶって自分で火つけてここで死にます!と言った。すると先方が「ちょっと待ってくれ! ここでするのだけはやめてくれ!」と言う。

 ここでなきゃどっかでやるならいいってことか。そういう問題じゃないだろう。あんたの責任をここで逃げるんじゃないと、がんがん交渉して、結果的には、その場で「何をすればいいのか?」ということになった。簡単だ、許認可の権利を持ってるあんたのところから電話1本いれてくれればいい。ただ単に「フェアにしなさい」。その一言でいい。その一言だけNTTの社長に電話入れてくれ、と。

 結果、電話してくれました。そしてNTTの社長に直接会いに行ったんです。ブロードバンドを始めてください。ADSLを始めてください。NTTとしてやってください、と。そしたら社長は「いや、NTTとしてはISDNをやると決めてるんだ」と。ISDN。もうとんでもない話です。日本だけなんです、世界でそんなことをやってるのは。これが原因で料金が高い。またこれが原因で遅いんです。そういう状況で聞いてくれない。聞いてくれないならしゃあない。ワシがやる!ということで、即刻決意してやったのが、ヤフーBBです。

 ですからこのヤフーBBというのは、我々のゼニ儲けだとか、我々の何か名誉欲とか、そういうことで始まったんじゃないんです。命を賭けて、命の叫びとしてです。

 なんとかなるもんです。高い志があれば。まさに我々にとっては桶狭間の戦いだった。小さな我々の会社が、日本一大きな会社に、しかもバブルがはじけたあとに。最悪我が社が押しつぶされたとしても、その結果、日本のブロードバンドの夜明けが来れば、それはそれで目的は達成です。

 日本の人々から見れば、我々が結果捨石になったとしても、幕末の尊皇攘夷の革命の志士のように、途中で殺されても維新が起きれば、それはそれで立派に事は成せりなんです。僕はそう思ったんですね。結果、日本は世界一安くなった。世界一の速度が出たんです。

 だから、世の中が悪いとか、政治家が悪いとか、景気が悪いとか、愚痴を言ったら、自分の器を小さくする。愚痴なんか言うとっても、なんも世の中ようならん。愚痴を言う暇があったら、自分ひとりの命でもいいから、世のため人のために命を投げ捨てる覚悟があれば、波紋は起きはじめるということです。私はそう思うんです』

 世界よりも廉価で待ち時間にもいらいらすることなく、誰もが当たり前のようにインターネットを利用できるようになったのは、今を去ること15年前にこんな努力があったということです。写真は、乗客のほとんど全員がスマホを使っている光景で、先日、私が昼間の地下鉄日比谷線内で撮ったものです。

 さて、前置きで少々スペースを取ってしまいましたが、それでは今号の設問に入ります。

設問128 世の中で13日の金曜日を、あまり良くは言わないようですが、では2016年から2027年の12年間に、「13日の金曜日」がない年はあるでしょうか。

 この設問はカレンダーの日付けと曜日の関係をおさらいする良い機会として取り上げました。

 まず直感として、次のように思った方も多かったかもしれません。

  • 1年の12ヵ月には30日の月もあれば、31日の月もある。
  • それが12年もある。
  • さらにその1年が365日のときもあれば、「うるう年」の366日のときもあり、その「うるう年」が12年間に3回もある。

 だから毎年、日にちと曜日のパターンは一定ではなく、さらに面倒な計算を連想させる「うるう年」もあり、そこには何の規則性なども見られないはずで、したがって1つ1つ日にちを調べていくよりほかに方法がないのではないか、それはとても短時間にわかるような問題ではない、と。

 しかしだからと言って、はたして出題者側が1つ1つ調べなければならないような問題を出すだろうか、との疑問が脳裏を横切ります。

 そこで設問からまず考えつくことは、日付けと曜日の関係です。通常、月が変わると日付けと曜日が違ってきます。

 常に7日目ごとに同じ曜日が巡ってくるわけですから、ひと月の日数を7で割って、その余りの日数分だけ次の月の曜日がずれて、日付けと曜日が違ってくるわけです。

 また、1週間は7日ですから、そのずれが起こる日数も最大6日であることもわかります。

 では、それがどのように変わってくるのか、まずは具体的に見てみることが、どうしても必要になってきます。

 ここで来年、「うるう年」ではない2017年を考えてみます。たまたまその1月1日は日曜日ですが、そこで1月の日数31日を7で割ると、31÷7=4 余りが3ですから、2月の1日は3つ曜日がずれて水曜日となります。

 次に2月の計算、28÷7=4 余り0で、3月1日に曜日のずれはなく、2月1日と同じの水曜日となるわけです。

 常識として、各月の日数は知っていなければなりませんが、これらの計算は非常に簡単ですので、同様な計算を続けてみます。

 3月は31÷7=4 余り3 で3曜日のずれ、以下同様の計算を進め、1月から12月までの各月ごとに発生するずれをまとめてみますと、3、0、3、2、3、2、3、3、2、3、2、3と出ます。

 ここからわかることは、月が進むにしたがって順次これらの数値を足していけば、それぞれの月の1月からのずれに相当する曜日になっているということです。

 そこで1月から12月まで、それぞれ各月までを足した結果は0、 3、3,6、8、11、13、16、19、21、24、26という1月からの曜日のずれ日数が出ます。

 比較し易くするため、これらの中で7以上の数値の月については、曜日の繰り返しとなる7あるいはその倍数を引いてやればよく、これにそって改めて計算し直しますと、1月から12月までの各月における1月からのずれの日数は0、3、3、6、1、4、6、2、5、0、3、5となります。

 もちろん1月自身のずれは0として、ここで1月から9月までに1月からずれている日数が0日〜6日まですべてあることがわかり、そのことは9月までのどの日付けも1度は7つの曜日に当たっていることを示しているわけです。
 つまり設問に返れば、1月13日、2月13日、3月13日、・・・、9月13日の中に金曜日に当たる日が必ずあるということです。ちなみに2017年は1月13日が金曜日です。

 こうして「うるう年」ではない年は、西暦何年でも関係なく、13日の金曜日が必ずあることがわかります。

 では、「うるう年」はどうか。前述の場合と2月が変わるだけですから、各月ごとに発生するずれの日数は、3、1、3、2、3、2、3、3、2、3、2、3です。
 したがって前述と同様の方式で計算をすれば、1月から12月までの各月における1月からのずれの日数は0、3、4、0、2、5、0、3、6、1、4、6となります。

 ということは、1月から10月までにずれている日数が0日〜6日までと、すべてのずれ日数が出そろいますので、やはり「うるう年」も西暦何年でも関係なく、10月までには13日の金曜日が必ずあることがわかるわけです。

 結果、「うるう年」のことや2016年から2027年の12年間という長いスパンを考えなくても、毎年、必ず13日の金曜日があるということです。

 皆さんの中には、問題文に「うるう年」への言及が一切ないことから、この設問は「うるう年」を考えなくても解けるのではないかと読んで、地頭力を働かせ2月を抜かした3月を起点にした同様なずれの簡単な日数計算を試みる人がいたかもしれません。

 その場合、3月から12月までの各月に発生するずれの日数は、前述2つのケースからもわかる通り、3、2、3、2、3、3、2、3、2、3です。

 したがって、3月から12月までの各月における3月からのずれの日数は0、3、5、1、3、6、2、4、0、2となり、3月の起点から10月までにずれている日数が0日〜6日までと、すべてのずれの日数が出そろうことがわかります。

 したがってこの方法だと、前述の「うるう年」とそうでない年を調べるやり方よりも手っ取り早く、毎年13日の金曜日があることがわかるということです。

 さて、日付けの曜日が7日ごとに繰り返されることや、各月の日数が7の倍数にはなっていないことから、月変わりの時点で日付けと曜日のずれが生じることなどは、当たり前の知識になっていますが、この設問の背景は、そのずれのことをどこまで深く考えることができるか、つまりそのずれが1週間の7つの曜日を全部カバーするような年があるのかないのか、そのずれを基にしてまずはやってみればわかる、といった見解の持ち主かどうか、そのあたりの資質を見ようとしているものと思います。

 それでは設問128の解答です。

正解

正解 128

13日の金曜日がない年はない。年に関係なく、13日の金曜日は毎年ある。曜日と日付けが月ごとに変わるのは、月の日数が週の単位である7で割り切れないからで、その日数を7で割った余りの分だけ、翌月の曜日にずれが生じる。だから1年を考えた場合、その年の1月1日が何曜日であろうと、1月以降12月までの1月から数えたずれの日数が、7あるいは7の倍数を引いて0日から6日が全部出そろうかどうかにより、同じ日付けで全曜日があるかどうかがわかる。(あとは前述のような簡単な計算で説明すればよい)

 次の設問は愛読者が知らせてくれた問題ですが、考えさせる良い問題だと思います。やってみてください。

問題 設問 129

ここに7段の階段がります。今、A君は5段目にいます。A君は毎回コインを投げて、表が出れば上に一段登り、裏が出れば下に一段下がります。こうして7段目にたどり着けば、100万円もらえます。逆に1段目まで降りてしまったらそこで終了、何ももらえません。さて、このA君が100万円をもらえる確率はどれだけでしょう?コインの表裏は1/2の確率で等しく出るものとし、階段の途中でやめることはできないものとします。

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 ビル・ゲイツの出題問題に関しては、HOW WOULD YOU MOVE MOUNT FUJI ? (Microsoft’s cult of the puzzle. How the world’s smartest companies select the most creative thinkers. )By William Poundstore の原書や、筆者の海外における友人たちの情報を参考にしています。
 また連絡先不明などにより、直接ご連絡の取れなかった一部メディア媒体からの引用画像につきましては、当欄上をお借りしてお許しをいただきたく、よろしくお願い申し上げます。

執筆者紹介


執筆者 梶谷通稔
(かじたに みちとし)

テレビ出演と取材(NHKクローズアップ現代、フジテレビ、テレビ朝日、スカパー)

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