連載

あなたはビルゲイツの試験に受かるか?
バックナンバー

その129

解法はいくつもある

前号へ
  次号へ

 前回の設問で13日の金曜日は、必ずどの年にもあることがわかりましたが、多い年には3回もあるのです。
 前問で掲載した表を見ていただくとわかりますが、1月からの曜日のずれが同じ月は、「うるう年」の場合、1月、4月、7月の3回、また「うるう年ではない年」の場合も2月、3月、11月のやはり3回あり、これらの月で13日が金曜日に当たっている年には、それが3回もあることがわかります。

 西欧で13日の金曜日が不吉であると見なされるようになったのは、キリストの最後の晩餐には13人がいて、そのキリストが金曜日に磔刑に処せられたとされていることからのようですが、他にも諸説あるようです。

 しかし、それはあくまでも迷信だとして、この13という数字に敢えて挑戦したのがアポロ13号です。
 1969年7月20日、人類初の月面着陸に成功したのがアポロ11号でしたが、4ヵ月後に打ち上げられたアポロ12号も月面着陸に成功。そして翌年の1970年4月11日、第3番目の有人月面飛行を目指してアポロ13号が打ち上げられました。

 この発射時刻が、米中部時間13時13分。科学全盛の時代に古い迷信を恐れる必要はないと考えた当時の技術者たちは敢えてこの時間を選んだそうです。
 しかし、その傲慢さへ警告するかのように、月までの距離が84%まで進んだとき、メインエンジン装備の支援船に2基備わっている酸素タンクのうちの一つが突然爆発するという重大事故が発生。
 それは発射から2日経った、なんと東部標準時間4月13日でした。

 支援船外壁の一部が吹き飛ばされ、爆発の結果、残る酸素タンクもだめになり、3つあった燃料電池もだめになり、2つあった電力供給ラインの1つも死んでしまった。燃料電池がだめになるということは、エネルギー源が一切なくなるとともに、水が供給されないということでした。

 そこで絶対に守らねばならなかったのは、地球帰還用の司令船内の酸素や電力で、その消費を極力抑えるために、管制センターは司令船内から3人の乗組員たちを月着陸船内に移動させます。
 さらにこのような状況下で、一刻も早く乗組員3人を地球に戻すにはどうすればいいのか。宇宙船を反転させるために、支援船のエンジンに点火すれば爆発で船体ごと吹き飛んでしまう危険があるのでこの方法はボツ。

 さらに月に接近していたため月の引力が大きくそれを振り切るだけのパワーがなかった。短時間で最善策が求められたこの緊急事態に、多くの専門家が出した結論は、月の裏側を回って月の引力を利用するスイングバイ航法で加速するというものでした。

 そこで即やらなければならなかったこと、それは爆発で大きく逸脱してしまった宇宙船の軌道修正でした。
 すごいプレッシャーの中で、最短距離の正しい軌道の割り出すための計算をやってのけたのが、当時、管制センターで唯1人の女性スタッフだった26歳のシステムエンジニア・ポピーノースカット。コンピューターの計算出力で、記録紙の山、山、山が大量に溜まっていったそうです。

 こうして割り出された軌道に、今度は宇宙船をどうやって載せるか。幸運だったのは、推進力は弱いものの、月着陸船に付いているエンジンが、着陸前で未使用だったことでした。
 着陸後にこの事故が起きていたら、もはやこのエンジンは使えなく、3人の命は完全にアウトだったのです。幸い軌道修正はうまくいき、宇宙船を帰還軌道に乗せることができました。

 しかし次の難問。その時点で残っていた電力は2日分、しかし地球帰還までには最低4日。そこで命綱の通信システムだけをオンにして、あとの機器の電源はすべてオフ。ナビゲイターシステムまでもオフの措置をとります。

 さらに宇宙船のスピードを上げる必要がありました。しかし月着陸船のエンジンは地球帰還用に設計されたエンジンではないので、噴射に対する耐熱材に限度があり、これまた大急ぎで実験データの検索検討がなされ、それをベースに噴射を実行。これもうまくいきました。

 ところがまたまた難問。通常2人乗りの着陸船に3人移動したため、二酸化炭素を吸収するカートリッジの限界を超え、船内の濃度が上がってきてこのままでは全員窒息死に至る危機が迫まってきたのです。
 すぐに司令船内にあるカートリッジを、3人のいる着陸船内に持ち込んだものの、形が違うためそこの空気清浄機に収まらない。そこでホースなどの宇宙船の中にある使えるものでカートリッジをむりやりつなぐ方策がとられ、これもうまくいったのです。 

 そして最後の難関、それは着陸船から地球帰還用の司令船に3人が移動した後、その指令船が地球大気圏に突入する角度の調整です。
 角度が深ければ、司令船は摩擦熱で燃え尽きてしまい、また浅ければ大気圏にはじかれて宇宙の果ての藻屑となってしまう。その許される角度の幅はわずか2.4度。

 そこで支援船を切り離したのち、着陸船のわずかに残ったエンジンパワーでこの角度の微調整に成功。そのあと切り離した着陸船が大気圏に突入して火の玉になっていくのを3人の乗組員は司令船から見ながら、司令船も大気圏に突入。
 高熱で通信は遮断。そして遮断12分ののち、パラシュートとともに落下してくる司令船が上空に姿を現したのでした。

 事故の原因はアポロ10号として用意されていた第2酸素タンクを設計変更で13号に流用し、その据え替えの時に技師が1本のネジを外し忘れたためとわかりました。
 しかし計画通りのミッションよりも、ずっと大きな成果を残したと言われたアポロ13号。発射時刻13時13分。事故が発生した13日の13号。
 13の付く迷信を当時の関係者全員で克服した事故後の87時間ドラマでした。

 それでは今号の設問に入ります。

設問 129

ここに7段の階段があります。今、A君は5段目にいます。A君は毎回コインを投げて、表が出れば上に一段登り、裏が出れば下に一段下がります。こうして7段目にたどり着けば、賞金100万円もらえます。逆に1段目まで降りてしまったらそこで終了、何ももらえません。さて、このA君が賞金をもらえる確率はどれだけでしょう?コインの表裏は1/2の確率で等しく出るものとし、階段の途中でやめることはできないものとします。

 さて、この設問を見てどう思いましたか。永遠の迷路に入ったような感覚を持った方も多かったかもしれません。
 つまり上に下に、行きつ戻りつする行程を考えたら、7段目に辿り着くまでのルート・ケースはいくらでもあるからです。
 おまけに、途中でやめることはできないなどというコメントが付いているのでなおさらです。

 しかし、ここがビル・ゲイツの言う「よ〜く考えよ」です。
 ここで気づくこと、それは、途中で予想される多くの行きつ戻りつを考えなくてもいいということ、つまり途中どこに移動したとしても、そこからの賞金獲得確率(以下賞金確率)は、最初からそこにいた場合と同じだということです。
 これによって考えられるケースが絞られ、さらに行程数を数える事には意味が無いということもわかります。

 そこで最初からそこにいたと考えれば、そのケースは7階段の7つだけです。さらに、そのうち3つのケースの確率は既知数、つまりすでにわかっている確定値ということです。
 便宜上、階段1から階段7まで、各々の賞金確率を順にp1、p2、p3、p4、p5、p6、p7としますと、既知数の1つ目は最下段1の場合で、賞金確率はゼロ、つまりp1=0。2つ目は最上段7の場合で、賞金確率は1、だからp7=1。3つ目は4段目、そこはちょうど7つの段の真ん中にあり、最下段と最上段に行く確率は半々、だから賞金確率は半分のp4=1/2ということです。

 しかし未知数としてのp2、p3、p5、p6が、まだ4つもあるので、それらの値をどうやって出すのかが問題です。
 そこで未知数がたくさんある場合の常套手段を思い出してください。それは方程式ではどうかという方法です。
 つまり連立方程式

 皆さんがあれこれと思考を巡らせてこられた過程の中で、各々賞金確率の間での関係を必ずどこかで考えておられたはずです。これらの記号による方程式を使えば、簡単に答が出てくることがわるのです。

 今5段目に居ますが、進み方は上に行く場合と下に行く場合の2つだけです。
 したがって、5段目からの賞金確率は、5段目から下の4段目に行く確率1/2に4段目における賞金確率を掛けた値と、5段目から上の6段目に行く確率1/2に6段目における賞金確率を掛けた値とを加えたものになりますから、そのp5の式は、
  p5=1/2p4+1/2p6 ・・・(1)
です。

 この式の中でp4は既知数としてわかっていますからp6、つまり6段目に行った場合がわかればいいわけです。そのp6の式は同様な考え方で、
   p6=1/2p5+1/2p7 ・・・(2)
となりますので、これら(1)と(2)の連立方程式で解けないか、ということです。

 この(2)式のp6を(1)式に代入してp6を消せば、p5=1/2p4+1/4p5+1/4p7 ・・・(3) ここでp4とp7はp4=1/2、p7=1の既知数で、これらを(3)に代入すれば、5段目からの賞金確率はp5=2/3と出るのです。
 同様なやり方で残りの段からの賞金確率も、p2=1/6、p3=2/6=1/3、p6=5/6と簡単に出すことができます。

 この他にもいろんな解き方があります。考え方の参考になると思われますので、ここにご紹介してみます。

 その1つは、どこにいても1段上に行くのも下に行くのも確率は1/2と同じであるということから、居る場所が7段目に近い方で賞金確率は高くなることが容易に予想できます。それを数値化して、賞金確率を全体の距離の中での比率で解くというものです。

 例えば5段目に居る場合、賞金をもらえる最上段までの距離は2段、逆に何ももらえない最下段までの距離は4段で、それら合計の全体距離から考えてその距離の比率は2:4、つまり1:2で1/3:2/3。
 確率という観点からみれば、距離の短いほうが高いということから、この比率の逆になりますから、答は2/3。
 6段目に居れば、距離の比率は1:5だから1/6:5/6。この逆を取って答は5/6。

 さらにはこんな解き方もあります。この解法には、どこにいても1段上に行くのも下に行くのも確率は1/2と同じで、常に一定であるという前提が重要です。
 つまりグラフにすれば、居る場所と賞金確率の関係は一直線になるということです。

 居る場所から最上段までの段数をx、賞金確率をyとすると、2つの既知数を使ってグラフが描けます。つまり、

  x = 6 のとき y = 0
  x = 0 のとき y = 1
 なので、x と y のグラフは直線の
  y = −1/6x + 1
 となり、問題の5段目は最上段までの段数x = 2 のときだから、これをこの式に代入して、
  y = −1/6x + 1 = −1/6 * 2 + 1 = 2/3。答は2/3と出るのです。
 残りの段の賞金確率も、 xに最上段までの段数を入れれば簡単に出ますね。

 この設問の背景は、一見、迷路に入ったような感覚に陥りがちな問題を前にしても冷静沈着に、あわてることなく論理的な思考ができるかどうか、またこの設問にはこの他にもいくつかの解法があり、視点を変えた複数の解法にも応えてくれるかどうか、なども期待して見ようとしていのかもしれません。

 それでは設問129の解答です。

正解

正解

 解法1 途中どこに移動したとしても、そこからの賞金獲得確率(以下賞金確率)は、最初からそこにいた場合と同じ。そこで4段目から7段目まで各段の賞金確率をそれぞれp4、p5、p6、p7とすると、5段目からの賞金確率は、5段目から下の4段目に行く確率1/2に4段目における賞金確率を掛けた値と、5段目から上の6段目に行く確率1/2に6段目における賞金確率を掛けた値とを加えたものになるので、p5=1/2p4+1/2p6、同様に6段目からの賞金確率は p6=1/2p5+1/2p7。ここで最上段7の場合、賞金確率は1だからp7=1。4段目の場合、そこはちょうど7段の真ん中にあり、最下段と最上段に行く確率は半々、だから賞金確率は半分のp4=1/2。これらの値を式に代入して連立方程式を解くと、求める解のp5は2/3と出る。

 解法2 賞金確率を全体の距離の中での比率で解く。5段目は賞金をもらえる最上段までの距離が2段、逆に何ももらえない最下段までの距離は4段で、それら合計の全体距離から考えてその距離の比率は2:4、つまり1:2で1/3:2/3。確率という観点からみれば、距離の短いほうが高いということから、この比率の逆になり、求める解は2/3。

 解法3 どこにいても1段上に行くのも下に行くのも確率は1/2と同じで常に一定。だから居る場所と賞金確率の関係は一直線のグラフになる。居る場所から最上段までの段数をx、賞金確率をyとすると、x = 6 のとき y = 0、x = 0 のとき y = 1なので、y = −1/6x + 1。5段目はx = 2 のときだから、これを代入して、y = −1/6 * 2 + 1 = 2/3。求める解は2/3。

では、次の問題をやってみてください。

問題 設問 130

こちらの家には2匹の犬がいます。この2匹のうち、少なくとも1匹はオスであることがわかっています。もう1匹もオスである確率は? その隣の家にも2匹の犬がいます。そこの1匹は黒で、もう1匹は白です。白い犬はオスです。もう1匹もオスである確率は? ただしオス・メスが生まれる確率はそれぞれ50%とします。

前号へ   次号へ


 ビル・ゲイツの出題問題に関しては、HOW WOULD YOU MOVE MOUNT FUJI ? (Microsoft’s cult of the puzzle. How the world’s smartest companies select the most creative thinkers. )By William Poundstore の原書や、筆者の海外における友人たちの情報を参考にしています。
 また連絡先不明などにより、直接ご連絡の取れなかった一部メディア媒体からの引用画像につきましては、当欄上をお借りしてお許しをいただきたく、よろしくお願い申し上げます。

執筆者紹介


執筆者 梶谷通稔
(かじたに みちとし)

テレビ出演と取材(NHKクローズアップ現代、フジテレビ、テレビ朝日、スカパー)

出版

連載

新聞、雑誌インタビュー 多数

※この連載記事の著作権は、執筆者および株式会社あーぷに帰属しています。無断転載コピーはおやめください

Page top