崩れそうな橋を17分以内で4人が渡りきる方法の設問35や、チャーチル、ヒトラー、スターリンに道を訊く設問38などと同様に、この問題のような長々とした文章からなる設問を見ただけで気後れしてしまうという方たちも、中にはおられるかもしれません。
また、テーブルに10円玉を交互に置いて勝ち残る方法の設問22や、離れた2地点から向かい合わせに出発した列車に出会うたびに方向転換をして飛び続ける鳥の飛距離を出す設問28、また100個のロッカー扉をトグル設問43や50組の夫婦の住む村での不貞問題を解く設問49のように、取り扱われる数や量が大きそうな内容だというだけで、これまた気後れが先行してしまうという方たちもおられるかもしれません。
当設問も、幾分なりともそれらの要素を持ち合わせているようで、気後れのためどこからどのようにして解いていけばいいのか、嫌気がさしてしまう方もいるかもしれません。
がしかし、前述のどの設問でも、そこには必ず突破口となる手がかりなり、糸口がありました。しかもそれらには往々にして共通する解法があって、前者の長々とした文章の設問では、問題をよく理解して整理すること、後者の数や量が大きそうに思える設問では、問題を単純化して考えること、さらにもう1つ、隠されているもの、あるいは文章の行間から読み取れるものは何かを念頭に置いておくことであり、それらによってスムーズに解答へと進むことができました。したがって当設問も、これらの点に注意してやれば必ず解けるはずです。
ではまず、前者に相当する重要なポイントを整理してみますと、 |
1. |
人員は5人で、彼らには序列があること。 |
2. |
彼らは金貨の分け前について、この序列順に発言ができること。 |
3. |
その発言への同意が過半数に満たなければ、発言者はそこで抹殺されること。 |
4. |
その中で序列1位の者が生き残れて、しかも一番多くの分け前にあずかる方法を見つけること。 |
になります。 |
そして重要なこととして隠されているもの、つまりこの設問では文章として明記されていないこと、それはこの5人の誰もが、常により多くの分け前を求めているということです。
その意味でこの5人は紳士ではなく、強欲な海賊が引き合いに出されていることを出題者側として面接受験者にわかってほしいというわけです。さらにもう1つ、あくまで主役は最上位の海賊ですが、同意するかどうかの賛否権の重みは最下位の海賊も同じであるということです。
そんなことはわかっている、ということかもしれませんが、これが大きなポイントとして解法を早める結果につながるということが、次の単純化によって一層はっきりとわかることになります。また、金貨の枚数の100という数字自体に意味があるかどうかも、単純化する過程でわかります。
では、単純化です。
100個のロッカー扉の場合や50組の夫婦の設問ではどうしたかといいますと、まずは問題に出ている数を少なくしてみることから始めました。また、テーブル上の10円玉の設問では、10円玉を1個しか置けないという極端に小さなテーブルを出発点として考えることによって、一気に解法に向かうことができました。
そこで当設問51に出てくる数には何があるのか見てみますと、それは金貨の枚数と海賊の人数の2種類です。しかしこの金貨の枚数は手段として使われているだけで、問題の本質ではないことがわかります。というのは、その数を減らしたとしても、問題の意味する中身は変わらないからです。
では、海賊の人数の場合はどうか。これはいけそうです。そこで極端に人数を減らしてみた場合、考えられるのは1人ではなく2人です。なぜなら、「分け前」の「分ける」という行為が生じる状況は、最低限2人から始まるからです。
そこで2人の場合を考えてみます。この場合上位の海賊は、同意者が自分たった1人でも、つまりどんなに他の1人の下位海賊が反対したとしても、同意者数はちょうど過半数を満たすので、命題のとおり上位海賊の意見は何であれ100%通って、生き残ることができます。だから彼は100枚の金貨を全部せしめることすらできるわけです。
このとき、1枚の金貨すらもらえない下位の海賊は、「2人だけになったらたまらない!」という心境で、自分の参政権が生きて金貨がもらえるケースを考えるはずです。
ここで前述、賛否権が同等の重みである下位の海賊の思惑が、問題解決の突破口・糸口になることがわかると思います。
彼は、最終的に2人だけ残るようなケースにはならないような投票をするということです。
そこでこのとき、「50組の夫婦」の設問で解いた手法が大いに参考になるのです。つまり1人の人間から見て、「自分以外の人たちはどう考えるか」を見る手法、つまり「他の人間の思惑」を考える手法です。
ここで説明をしやすくするために、便宜上、海賊の上位から順にA、B、C、D、Eとします。Eは2人だけにならないように考えますから、A、Bが抹殺されていても、Cが生存していてくれれば、Cの提案に賛同することにより、Cと自分Eとで2対1の過半数以上になり、少なくとも金貨にありつけそうです。
そこでCは、「Eはこのように考えるはずで、どんなに分け前が少なくとも、自分Cに賛成せざるを得ない」との思いを巡らすことになるということです。だからCはこの場合、最少の金貨1枚をEに、残り99枚は自分、Dには分け前をあげないという提案をすればいい、と考えるはずだということです。
ここまできますと、もはや具体的な突破口がつかめてきたと思います。
今度は分け前にあずかれないDは「絶対に3人が残ってしまうようなケースにはしたくない!」と考えるはずだということです。
したがって4人が残る場合のBは、このことを「他の人間の思惑」として見逃さないということです。どんなに金貨の少ない枚数でもDは自分に賛成し、自分BとDの2人で同意が過半数取れます。このときBは99枚、Dが1枚、そしてCとEは分け前なし、という提案が通ると考えるわけです。
この場合、CとEの2人は不平タラタラの状態です。だからこの2人は4人だけのケースにはしたくないはずです。そのような状況が起こることを見逃さず想定できるのは、今度は海賊が5人いる場合のAです。
4人の場合、CとEの金貨は得られない。しかし5人の場合、この不満分子のCとEが最上位のAに同意すれば、A、C、E 対 B、D。つまり3対2の過半数以上でAの提案は通る。「CもEも、分け前は何枚でもゼロ枚よりはましだから、Aに同意しようと考えるはず」と、Aは思いを巡らすことになるわけです。
したがって、Aの提案する金貨の分け前は、Aが98枚、CとEが1枚、BとDは0枚で成り立ち、自分自身も抹殺されずに済むことになるわけです。
ところで海賊の強欲はわかるとしても、はたして海賊に、頭脳労働としてこのような論理思考ができるのかという現実的な問題が残りますが、そこのところは海賊に代って実際に設問を解く受験者たちの知能を出題側は期待しているということでしょう。
出題文章の長い当設問は、隠されているものも含めてその内容をしっかりとした整理をし単純化することにより、正解に至る糸口がつかめ、そのスピードにも大きな違いが出てきます。当設問の背景は、当然、しっかりした論理思考ができるかどうかを見ようとしているのですが、その過程でこのようなスピードに結びつく解法も身につけているかどうか、それも見ようということです。
地頭力の中でも、先見/洞察力、思考/問題解決力に深く関わる設問ですが、地頭・地頭力については、拙著「成功者の地頭力パズル」の中の「今風の地頭男 ビル・ゲイツ」欄を参考にしてください。
それでは解答です。
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