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あなたはビルゲイツの試験に受かるか?
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その17:人間の盲点
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前問の砂時計の設問では、たとえ2つという限られた値しかない計測器であっても、15分、17分、19分などは複数の方法で計れることがわかります。しかし、特にシステム設計やプログラミングに関連した仕事に従事している方たちからは、そのうちの最少のステップで計れる方法での回答を真っ先に挙げていただけたものと思いますが、いかがでしょうか。最短時間で処理できるような設計やプログラミングこそ、顧客への最高の贈り物になります。

 では、設問17の解説です。


問題 設問17 外見上はまったく見分けのつかない同じ玉が詰っている5個の箱がある。それを見分ける唯一の方法は重さで、そのうち1つの箱に入っている玉だけが9グラム、他の箱の玉はすべて10グラムである。秤があって、一度だけ重さを測ることができるが、中身の違う玉の入っている箱がどれか、どうやって見分けるか。

 この問題については、すぐにわかったという人が多いのではないでしょうか。いかがですか。ところが落とし穴が待っています。ビル・ゲイツがこんな簡単な問題を出すはずがない、と疑問を持った人だけが合格点に近づくというわけです。

 まず、秤があるのだから、それぞれの箱から1個ずつ玉を取り出しながら、順に秤にかけて9グラムのものをさがせばいいわけですが、これだとたった一度の計量という条件では済みません。一発で9グラムのものを当てるには5分の1の確率でしかないからです。

 計量が一度だけということは、少なくとも1個の玉を乗せるだけではダメということですから、そこで複数個の玉を乗せて判別するということになります。しかし、全部の箱から1個ずつ取り出して5個を一度に量っても秤の目盛りは49グラムを示すだけで、どの箱が9グラムのものかはわかりません。
 複数個の玉といっても、各箱から同じ数だけ取り出したのでは、これと同じことになりますから、箱が識別できるようにするためには、取り出す玉の数を箱ごとに変えてやる必要があるとわかってきます。

 ではどのように変えるか。ここで説明のために便宜上、1番から5番までの番号を箱につけておきます。そこで各箱から取り出す玉の数を変え、しかも全部の箱から取り出す玉の合計が最少となるケースをとりあえず考えてみます。そこで、1番からは1個、2番からは2個、3番からは3個、4番からは4個、5番からは5個の玉を取り出して、全部秤に乗せたらどうでしょうか。

 もし全部の玉が正常な10グラムだったら、この場合、10+20+30+40+50=150グラムとなります。実際には10グラムより1グラム少ない異質玉が、その中に混じっているわけですから、実測全体重量は正常全体重量150グラムより、(1グラム x 異質玉数)分だけ軽くなっているはずです。もうおわかりですね。
 実測全体重量が149グラムだったら、150グラムより1グラム少ないというわけで、1個例外の玉が入っていることになりますから、この場合、1個を取り出した1番の箱ということが簡単にわかります。同様に148グラムなら2グラム少ないので2番、・・・という具合です。

 ここまでが、簡単にわかったという人たちの大部分の解答ではないでしょうか、どうでしょうか。

マイクロソフト本社 マイクロソフト本社

 実はもっと考えて欲しいということなのです。ここでは、全部の箱から取り出す玉の数を15個と最少となるケースを試してみましたが、よく考えれば箱ごとに取り出す玉の数さえ違っていれば、それぞれ幾つであっても実測全体重量が正常全体重量よりも(1グラム x 異質玉数)分だけ軽くなり、まったく同じことになります。つまり正常全体重量と実測全体重量との差をみれば、どの箱が異質玉の入っているか簡単にわかるということです。
 たとえば1番からは5個、2番からは3個、3番からは10個、4番からは9個、5番からは6個と、それぞれ箱から取り出す玉の数を違えて取り出すならば、玉の数は全部で33個。したがって、正常全体重量は33x10=330gで、もし1番の箱が異質玉ならば実測全体重量はそれより5x1g=5g少ない325gと計測されているはずで、正常全体重量330gと実測全体重量325gの差、5という数字から、異質玉の箱が1番の箱だとわり出せるというわけです。

ビル・ゲイツ

 このことから回答は無限大にあることになります。しかし、正解は無限大あるという落とし穴ではありません。無限大あるといっても、箱が無限に大きく、玉が無限に入っているという現実ばなれした前提に基づきます。冒頭にも記述しましたが、システム設計やプログラミングに関連した仕事に従事している方たちに望まれるのは、やはり現実に則して最短時間で処理できるような最少のステップで済む設計やプログラミングで、この種の設問ではビル・ゲイツもそこを望んでいるわけです。

 だったら、前に考えた15個を取り出すのが最少じゃないか、と振り出しに戻りそうですが、残念ながらこれでは及第点をもらえません。ここが人間の盲点で、落とし穴なのです。
 そこで、正解が無限大あるということ、それがヒントを与えてくれます。
 このような設問を前にしますと、人間の盲点としてとにかく玉を取り出すことばかり考えてしまいます。つまり玉を取り出さないことなど、初めから考えもしないという盲点です。

 最初に考えたのが、それぞれの箱から1〜5個の玉を取り出しましたが、実数には0もあるわけです。0個の玉を取り出す、という考え方です。だからそれぞれの箱から0〜4個の玉を取り出すのも正解になるはずで、この場合は取り出す玉の数は、全部で先ほどの15個より5個も少ない10個で済むわけです。3分の1の短縮です。

 これをシステム設計やプログラミングの工数における短縮と考えたら、莫大な節減になることは明らかで、ビル・ゲイツもそこのところを問いたいわけです。ですから前号ではこのことを意図して、「その背景を慎重に考えながら、次のビル・ゲイツの設問を解いてみてください。」と、前置きしたということです。
 それでは合格点を取れた正解です。


正解 正解17 箱1から1個、箱2から2個、箱3から3個、箱4から4個を取り出し秤に乗せる。100グラムなら箱5が、また99グラムなら箱1が、98グラムなら箱2が、97グラムなら箱3が、96グラムなら箱4が、それぞれ異質玉の入っている箱。

 それでは、次の問題です。この設問はこれまでのものとはちょっと異質かもしれませんが、ビル・ゲイツの面接試験ではこの種のものがしばしば出てきます。やはり、その背景を考えながらやってみてください。


問題 設問18 世界中にピアノの調律師は何人いるでしょう。

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 ビル・ゲイツの出題問題に関しては、HOW WOULD YOU MOVE MOUNT FUJI ? (Microsoft’s cult of the puzzle. How the world’s smartest companies select the most creative thinkers. )By William Poundstore の原書や、筆者の海外における友人たちの情報を参考にしています。
 また連絡先不明などにより、直接ご連絡の取れなかった一部メディア媒体からの引用画像につきましては、当欄上をお借りしてお許しをいただきたく、よろしくお願い申し上げます。

執筆者紹介


執筆者 梶谷通稔
(かじたに みちとし)

テレビ出演と取材(NHKクローズアップ現代、フジテレビ、テレビ朝日、スカパー)

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