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あなたはビルゲイツの試験に受かるか?
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その86

簡単そうに思える問題は、注意が必要

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 確率の設問は、しばしば直感がわざわいして間違いやすいため、頻繁に出題されますが、前問もそれに類する問題でした。
 普通に考えれば、いずれにしても3枚の札の1つを選ぶことには変わりないわけですから、その確率は1/3にしかならないと考えてしまうものです。

 しかし、設問46(2人共、女の子である確率)や設問50(3枚のカードで、裏も白である確率)、設問53(宝石の入っている箱の確率)や設問85(1枚のカードを当てる確率)で見たように、普通に考えられる確率とは違った解答となってしまうのです。

 なぜそのようになってしまうのか、よくよく考えればわかることなのですが、それは確率を出すときの分母が普通の場合と違ってくるからです。
 それは「条件付き確率」といって、その確率論は1763年にベイズの定理として発表されていますので、興味のある方は紐解いてみてください。

 それでは、今号の設問はいかがでしょうか。

問題 設問86  時計の長針と短針は、1日に何回90度をつくるでしょう。

時計

 この問題は論理思考を要する設問やフェルミ推定の設問と違って、いたって簡単に答えられるような問題です。しかし、あなどると落とし穴にはまってしまいます。
 そもそも簡単な設問なら、わざわざ試験問題として出題されることはありませんから、簡単だと思われた方は、この問題に限らず充分心してとりかかる必要があります。

 まず、当連載の愛読者の中には、この連載シリーズのどこかで時計問題を解いたことを思い出された方もあると思いますが、それは設問82の「1日24時間のうちで、長針と短針が重なる回数を、2つ以上の解法で説明してください」という問題でした。
 ですから愛読者の方たちにとっては、落とし穴にはまることはなかったはずです。

 というのも、そこでの解説「この設問を見た瞬間、論理思考などは要らない直感で解けそうな問題、という印象を受けますが、しかし直感が働いて解けそうに思えるような問題は、あわてて解こうとすると間違いやすく落とし穴があるので、疑って取りかかる必要があり、よ〜く考えること」に学んでおられたはずだからです。
 さらにそれに加えることとして、そこで学んだスマートな解法という下準備ができているはずですから、すんなりと正解へと進まれたのではないでしょうか。

 しかし、愛読者ではなく、初めてこの設問に接した方たちの中には、落とし穴にはまってしまったり、あらぬ方向に進んでしまった人もおられたかもしれません。
 そこで、今後の参考のためにも、この落とし穴やあらぬ方向に進む例を、まず最初に見ていただきます。
 その落とし穴とは、ストップウォッチなどを持った試験管が目の前にいて、回答スピードまでを試されるような場合に起こりがちです。

 その1つ目は、片手落ちによるもの。おそらく大勢の方は長針と短針が重なっている0時を、その出発点として考えられるはずです。
 するとまず長針が動いて90度を作りますから、その先、常に短針を追い越して90度を作る長針だけを思い描いてしまい、短針を追い越す前にも90度を作る場合を、ストップウォッチのせいでつい見逃してしまい、結果、間違えてしまうというケースです。
 これだと、1時間に1回の90度を数えていくことになるので、1日24時間では24回と答えてしまいます。

 2つ目は、そんなことは充分わかっている。0時直後のときには図1を思い描き、その次は図2を思い描くので、結局1時間ごとに2回の90度を作ると考えるケースです。
 この場合もまたストップウォッチのせいで、1日24時間には24x2=48回と答えてしまうのです。

図1、図2

 では次に、あらぬ方向とはどんな方向か。それはストップウォッチなどを見せられることもなく、充分時間があると思われる状況のもとで詳細な計算に入ってしまうことです。
 つまり長針と短針が動く速度と角度を、式を使って計算に入るケースで、長針は60分で360度、1分で6度進み、短針は60分で1時のところにくるので90度の1/3の30度、だから1分で1/2度進むとし、したがって、0時から最初の90度を作るまでに要する時間をX分とすると、6X=1/2X+90、X=180/11≒16.4分経過したところで1回目と出すわけです。

 次に2回目は長針が短針を追い越す前に作る90度ということで、そこをさらに1回目の位置からY分過ぎたところだとすると、長針は6x180/11+6Y度、短針は1/2x180/11+1/2Y度のところにいることになり、それは360度先にいる短針の位置から90度を引いたところに長針があることを意味していますので、6x180/11+6Y=1/2x180/11+1/2Y+360−90。
 だからYは・・・などとやって時間と回数を見ていこうとすると、卓上計算機が必要になってきて、もはやここで試験管はダメを出すことになります。

 どうしても分と角度を計算し回数を出すということであれば、0時からスタートすると;
長針が短針を追い越したすぐあとに90度をつくる経過時間X分は、
 6X=1/2X+90+360N・・・(1)(Nは周回数で0、1、2、・・・)
長針が短針を追い越す前に90度をつくる経過時間X分は、
 6X=1/2X−90+360N・・・(2)(Nは周回数で1、2、3、・・・)
となるので、この(1)と(2)で1日経った、つまりX=24x60分としたときのそれぞれのNを出し、その合計がどうなるかを計算すればいいことになります。結果は44です。
 しかし、試験管はこのような式を立てて計算する方法は感心しないのです。なぜなら、そんな時間がかかる方法よりも、もっとスマートな解法を期待しているからです。

 そこで前述のように、設問82をすでに学習された方は、スマートな解法の下準備ができていることから、すんなりと正解へと進まれたことでしょう。
 つまり長針は1日に24時間で24周回ります。短針も1日に2周回ります。短針から見ると、長針は1日で22周します。つまり短針を固定して見れば、長針だけが22周するということです。長針と短針の作る角度が90度になるのは、長針1周に付き2回ずつなので、22×2=44回となるわけです。

 図1と図2を思い描いて落とし穴に陥った方たちの中には、どうしても納得がいかない人たちもおられるかもしれません。長針と短針の作る角度が90度になるのは1時間の間に2回あるのだから、24時間では48回になるはずなのに、どうして44回なのか、と。
 それは長針とともに短針も少しずつ進んでいるためで、2時から4時および8時から10時のそれぞれ2時間の間には、本来4回あるべき90度が3回しかないためです。つまり3時と9時きっかりの時間が、その前後の時間帯に共有されているからなのです。

 そこで全体を通してそれがわかりやすいよう、(1)と(2)の式を使って、90度になる午前中の時間を計算して出したのが図3です(分以下の秒は省略)。

図3

 この設問の背景は、これまで見てきた設問の中の1つのジャンルとして共通する課題で、簡単で易しそうに思える問題、すぐに解けそうな問題には、特に注意深く取り組こもうという姿勢を持っているかどうか、その課題を見ようとするものです。

 それでは設問86の解答です。


正解 正解86  長針は1日に24時間で24周回りする。短針も1日に2周回りする。短針を固定して見れば、長針だけが22周するということになる。長針と短針の作る角度が90°になるのは、長針1周に付き2回ずつなので、22×2=44回。

 では、その出題背景を考えながら、次の設問を考えてみてください。


問題 設問87  17頭のラクダを3人の息子で分けるようにと、遺言書を残して年老いたアラブ人の父が亡くなりました。しかし遺言にしたがってラクダを分けようとした息子たちは、途方にくれることになります。遺言には、長男に半分、次男に1/3、三男に1/9のラクダを与える、とあったからです。遺言どおりに分けようとしても、整数では割り切れないのです。3人が困り果てているところに、ちょうどラクダに乗ってさすらいの1人旅をしている数学者のおじいさんが通りかかりました。息子たちがこのおじいさんに相談すると、ラクダを傷つけることなく、3人の息子たちが不満に思うこともなく分ける方法を教えてくれました。このおじいさんは、どうやって遺言どおりにラクダを分けたのでしょうか。その方法でうまくいく理由も答えてください。


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 ビル・ゲイツの出題問題に関しては、HOW WOULD YOU MOVE MOUNT FUJI ? (Microsoft’s cult of the puzzle. How the world’s smartest companies select the most creative thinkers. )By William Poundstore の原書や、筆者の海外における友人たちの情報を参考にしています。
 また連絡先不明などにより、直接ご連絡の取れなかった一部メディア媒体からの引用画像につきましては、当欄上をお借りしてお許しをいただきたく、よろしくお願い申し上げます。

執筆者紹介


執筆者 梶谷通稔
(かじたに みちとし)

テレビ出演と取材(NHKクローズアップ現代、フジテレビ、テレビ朝日、スカパー)

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