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会社パック

その3 桃太郎はリーダー論と経営論

「夢」と「志」との違い

 2000年、ITバブルの崩壊でソフトバンクの株価が約100分の1に崩落、世間からペテン師、犯罪者、ヤマ師、嘘つき、泥棒などとあらゆる罵声を孫氏があびたとき、「ワシは何のために生まれてきたのか、ワシゃなんのために志を立てたのか、志ってなんだったんだ」と一念発起、そして国民のために、当時、世界一遅いそして世界一価格の高い日本の通信方式を変えようと、NTT社長に直談判します。

 しかしNTTが次に計画している通信方式(ISDN)も、従来の通信速度と料金体系の抜本的な改革になるものではなく、NTTが自らやらないなら、NTTの回線を借りて自分がやると始めたのがヤフーBBでした。

 この経緯からわかるとおり、先にソフトバンクのビジネスがあったというわけではなく、世界に遅れをとっていた日本のブロードバンドの夜明けに向けたカンフル剤を打つ形で、日本産業界の一層の発展につながれば、「それで事成せり」としたのが、もともとの動機だったということです。

 写真は、今から4年も前の2013年、私が昼間の地下鉄日比谷線内で撮ったもので、すでに乗客の10人中9人がスマホを使っている光景です。

世界のどこよりも廉価で待ち時間にもいらいらすることなく、誰もが当たり前のようにインターネットを利用できるようになったのは、今を去ること16年ほど前にこんな努力があった結果だということです。

 そこでの発言、「我々が結果捨石になったとしても、世のため人のために命を投げ捨てる覚悟があれば、波紋は起き始める。なんとかなるものです。高い志があれば!」にもありますが、氏は盛んに「志」という言葉を使っています。

 その「志」について、孫氏はこんなことを言っているのです。「志」というのは「夢」とほぼ同義だが、夢はあくまでも「個人の幸せ」を追求し、志は「みんなの幸せ」を追求する、という点で別物である、と。

 この2つの言葉の違いは、「使命感」というワードをそれに加えるとよくわかります。たしかに「使命感に基づく志」とは言えても、「使命感に基づく夢」とはあまり言いません

 さて、佐賀県鳥栖に生を受けた孫氏の幼少時代から始めた当連載、その小さな心で差別社会を感じ取り、それにまつわる名前の問題、国籍の問題、そして後年、それらの問題を払拭する意味も含め、世の中に役立ち認めてもらうためのデジタル情報革命という「志」を立て、旧来の日本の通信方式と闘ったところまで見てもらいましたが、今日の孫氏のビジネス展開に欠かせない資質や商才は、幼少や少年時代にその片鱗が伺えるのです

 したがって幼少の頃の出来事を、そのままただ単にお伝えするだけでは何の意味もなく、それ故、特にこの片鱗が汲み取れるところを見落とさないように気をつけながら、以降、稿を進めてまいります。

私のリーダー論と経営論

 では後年、氏が語っている「私のリーダー論と経営論」を、まず最初に見ていただき、それが幼少の頃とどう結びついているのかの関連性を、その後で見ていただくことにします。氏は語ります。

 【 真のリーダーシップの発揮に最も必要な要素は3つあると、私は思っています。重要な順に挙げると、最初が「志」と「理念」。まず、志や理念を掲げることにより、その志の大きさやすばらしい理念に共鳴する能力を持った人たちが集まってきます。
第二が「ビジョン」。似たような言葉ですがちがいます。
第三が「戦略」。この3つです。

そして事業を成功させるにあたり、この次に大事なのはインセンティブ(報酬)でしょう。

 日本には昔から「不言実行は美徳」という武士道教育が行われていましたが、これは或る意味で部下を育てるための教育という気がします。逆に言えば、リーダー学ではないということです。
 真のリーダー・帝王学とは、やはり言うべきことははっきり言う。例えば“わが国はこうあるべきだ”といった具合に、まず志を示す。
 織田信長にしろ徳川家康にしろ、誰であれ一時代をつくった人というのは、大きな志を先駆けて語っています。明治維新のときも、新生日本の建国に情熱を燃やした志士たちは最初に志を述べています。

 会社経営もまったく同様で、やはり経営者たる者は、強烈な思い入れの「志」とそれを必ずやりぬくという情熱を熱く語らなければなりません。それには、その背景となる哲学が必要で、この哲学が私にとって「理念」です。
 そして次に「東の山に宝あり、その宝とはどんなものか、どういう姿形で、どれほどの価値のあるものか」と、先を見通してのビジョンをクリアに描き、向かう方向をはっきりと示すことです。

 さらにその次にくるのが、どうやってそれを実現するのか、その方法論、つまり戦略をしっかりと立てリードして行くことです。かくして、全員が一つの目標をかざし、その迅速かつ確実な実現へと立ち向うエネルギー集団ができあがります。
この3要素を示せないリーダーにはついていくべきではないと、日本の学生諸君やサラリーマンの人たちに言いたい。

そこで同士の努力に報いる仕組み、あるいは仕事に励むエネルギー・動機づけとなる、いわゆるインセンティブが次にくるわけで、この報酬に対する仕組みを事前に明確にしておくことが大変重要になります。

 1994年から始めたわが社の報奨金制度は、社員の業績に応じて私が持っているソフトバンクの株を譲る方式、いわゆる擬似ストックオプションです。
 これを単に報酬で人を釣り上げるための仕組みと見る向きもあるようですが、私は別の見方をしています。

今、95%もの会社がストックオプションをとり入れているシリコンバレーでは、もはや資本家対労働者の世界ではなく、志を共にした同士でそのリターンを共有できる、いわゆる会社の株を持っている社員はイコール資本家という構図になっているからです 】と。

 ここでも氏は「志」という言葉に盛んに言及していますが、私はかってビジネス界、政界、学界、スポーツ界における内外300人あまりの第一人者が主張しているメッセージを、3000ほど集め、その中のキーワードをデータベース化してコンピューター分析し、拙著・企業進化論に著しましたところ、はからずもビジネス書のベストセラーとなりました。

そのようなことになったのも、多くの方たちがその内容に賛同されたからだと思っていますが、その中でビジネス界の、特に創業者やトップリーダーの皆さんたちは、例外なく「志」や「理念」、「ビジョン」、さらには「使命感」という言葉に言及していました。
 これらのことはビジネス、特に経営という観点から、それだけ重要な核になっているということだと思います。

 では、氏の「私のリーダー論と経営論」というメッセージと氏の幼少時代と、いったいどんな関係があるというのか。
 それは、おばあちゃんに絵本を読んでもらったときのお伽噺が、小さいながらも心躍らせた幼少期の感性と関係し、それが起因したリーダー論と経営論になっているということです。

このことを念頭に置きながら、次を読んでいただければ、それがよくわかります。氏は語ります。

 【 桃太郎というお伽噺は実に優れた物語だと思っています。桃太郎はまず最初に、理念と志を掲げています。自分が世話になったおじいさん、おばあさんの住む村、その村人が鬼に苦められている。“彼らを救わなければ”という「理念」と“その鬼を退治するんだ”という強い「志」です。

 次に、鬼は何処にどんな姿かたちで、またどんな武器をもってどれほどいるのか、しっかり見通した「ビジョン」で、鬼が島という進むべき方向性をはっきりと示しています。
 次に実戦における戦略は、「噛みつく」「引っ掻く」「空を飛んで突つく」という鬼陣営にはない特技・特別の武器で攻めまくるというものです。
 それは途中、その素晴らしい「理念」と「志」に共鳴し、集まってきた同士たち、いぬ、さる、きじの特技だったからです。

 おまけにこの噺には、りっぱなインセンティブまでもが盛り込まれています。「理念」「志」を話したあと“ついてきてくれるなら、キビ団子”、という報酬を最初の段階で明示しています。さらに鬼退治に成功したら、鬼が村人から奪っていた金銀財宝までも分け与える、と。
 こうして桃太郎の作戦はみごとに成功、村人たちは救われ、共に戦った仲間たちも含めて、また全員に幸せな生活が戻ります。

 この話を5~6歳のときに知って、僕は非常に血湧き肉踊りました。子供ながらに「自分も将来は、鬼がいたら退治しなければ」と、その志に共鳴したものです。
 また当時の僕は随分と空腹だったので、キビ団子も魅力でした。また、報酬が二段階というのが、いいのです。出かけるときに団子、勝ったら金銀財宝。これもまた、子供心を大いにくすぐりました 】と。

 このような形で桃太郎の物語を、経営論にまで結び付けている先人は、過去には見当たりません。
 普通ならば、“あヽ、面白かった”で済んでしまうのが子供たちの見方です。しかし氏はそれ以上のものを捕らえていたことが、 “僕は非常に血湧き肉踊り、子供ながらその志に共鳴した。自分も将来は、、、”の言葉と、のちにマネジメントとしての実感“これは実によくできた優れた物語だと思っている”の言葉によって、その感性がよくわかります。

 ここで述べた「感性」という言葉も、多くの創業者やトップリーダーの皆さんが言及している数少ない重要なワードの1つでした
感性は誰もが持っているが、その感度に違いが出てくる。つまり同じものに対しても、問題意識の深さによって感じるインパクトに大きな差が出てくる、と言っているわけです
 桃太郎の話でリーダー論ということになれば、普通は桃太郎自身について云々する展開となっていくものですが、氏はこのように協力仲間やインセンティブにまで視点を広げ、経営という世界へと結びつけているところが、まさに孫氏に伺える感性です。

 さて、次は氏の北九州市引野小学校時代の話で、その担任だった三上喬先生は、日本名の安田正義少年のことを、「どの子にも優しく親切で、しかも間違っていたら説得する力があり、みんなを引っぱっていく生徒だった。誰もが少しは敵をつくるものだが、みんなやっちゃん、やっちゃんと言って慕っていた」と、すでに少年の説得力のことやリーダーの片鱗があったことに触れていますが、次に氏が語っている小学生時代には、のちに見られる氏の原点・雛型とも言えるスタンスが伺えます。

小さい頃に覗く今日の原点

 【 僕は小さい頃から負けん気の強い一途な性格で、やり始めると夢中になるガキ大将だった。雨の日以外は家に居た覚えがない。僕は遊びのルール・メーカーで、“みんな、そのルールを守れ”が僕の口癖になるほど、いろいろ工夫して、夢中で遊んだ。
 そんな中で、小学2年生の1年間は、例外的に勉強に熱中した。というのも、担任の先生がたくさんマルをくれるのがうれしくて、朝4時には起きて勉強していた。また家中揃って旅行に行く時も、僕一人家に残って勉強するほど没頭した。

 5年生になると、サッカー部に入ったものだから、今度は毎朝5時、まだ暗いうちからグラウンドに出て、たった一人で練習をした。そして家では階段にタイヤをぶらさげて、頭の皮がむけるほど、ヘディングの練習もした。
 また何より足腰を鍛えなければならない。今度は親にねだって、鉄下駄を買ってもらった。学校から帰ってくると、その下駄を履く。小さな体にはとてもきつかったが、歯をくいしばって一生懸命訓練した。

 何事も熱が昂ずると、トコトン打ち込むタイプ。家にいる時だけでなく、何とか他の時間も利用できないかと思案してひらめいたのが、靴の中に鉄を敷き、それを毎日、通学の行き帰りに履くアイデアだった。
 さっそく厚みが1.5cmの鉄板を拾ってきた。それを敷いた自分の靴では足が入らなくなるから、まず兄の靴を借り、近くの自動車整備工場に持って行って、その型どおりに鉄板をガスバーナで切ってもらった。さっそく敷いて試したが大失敗。歩こうとしても、まったく歩けない。

 そのとき、初めて気がついた。靴とは、カカトとつま先との中間部分で曲がるからこそ歩けるのだと。
 それでも、こんなにして励んだ2年間。中学では、とうとう1年生からレギュラーのポジションを獲ってしまった 】と。

 小学2年生で朝4時起きの勉強、5年生のときには朝5時起きのサッカー練習、しかも家にいる時だけでなく、他の時間も利用できないかと考えだした「靴の中に鉄板を敷く」アイデア。
 遊びのルール・メーカにしろ、大失敗の鉄板敷にしろ、そこに見られる分析と工夫。そして勉強にしろ、遊びにしろ、目標をかかげたら、それに向かってまっしぐらに突き進む一徹さは、以降、順次紹介していきますが、のちに氏のビジネスの世界で花開く、あらゆる事業の随所で見られるもので、その片鱗がすでに伺えるということです。

(連載・第三回完 以下次回につづく)


執筆者 梶谷通稔
(かじたに みちとし)
  • 岐阜県高山市出身
  • 早稲田大学理工学部応用物理学科卒
  • 元:米IBM ビジネス エグゼクティブ
  • 現:(株)ニュービジネスコンサルタント社長
  • 前:日本IBM  GBS 顧問
  • 前:東北芸術工科大学 大学院客員教授
  • 現:(株)アープ 最高顧問
  • 講演・セミナー・研修・各種会合に(スライドとビデオ使用)
    コンピューター分析が明かすリクエストの多い人気演題例
  • 始まったAI激変時代と地頭力
  • 始まったネット激変時代と成功する経営者像
  • どう変わる インターネット社会 あなたやお子さんの職場は大丈夫か
  • ビジネスの「刑事コロンボ」版。270各社成功発展のきっかけ遡及解明
  • 不況や国際競争力にも強い企業になるには。その秘密が満載の中小企業の事例がいっぱい
  • 成功する人・しない人を分けるもの、分けるとき。
  • もったいない、あなたの脳はもっと活躍できる!
  • こうすれば、あなたもその道の第一人者になれる!
  • 求められるリーダーや経営者の資質。
  • 栄枯盛衰はなぜ起こる。名家 会社 国家衰亡のきっかけ。
  • 人生1回きり。あなたが一層輝くために。

テレビ出演と取材(NHKクローズアップ現代、フジテレビ、テレビ朝日、スカパー)

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