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会社パック

その23 自然の摂理に基づく、企業300年の大計

 孫青年が病床で読んだ4000冊余りの歴史書や中国の古典を通して、特に織田信長や坂本龍馬、そして孫子の兵法などから、会社経営及び経営者としての基本的なスタンスを学び取ったその経緯を、前2回の連載で見てもらいました。 
 しかしこの病床時に限らず、他のジャンルである科学雑誌などを通して得た知識も、今日のソフトバンクを築く重要な基盤となっていることがあるのです。
 孫氏がアメリカに留学中の19才だったとき、両手両足の指がジーンとしびれ、もう感動のあまり涙が止まらなくなったという話を、この連載その12で見てもらいました。
 それは、「サイエンス」という米科学雑誌に載った未来都市の設計図のように見えた写真で、実は集積回路・LSIだったと知ったときでした。
 この時の感動が、ちょうどそれから30年を経た2016年、世界のスマートホーンのLSIチップ市場で95%以上のシェアを占めるARM社を3兆円以上もの金額で買収するという形となって出たわけです。
 これからの時代が確実にAIに向かって行く中で、新たに開発されるARMチップのAI処理能力を見越した上で取った決断だったのです。

 科学雑誌といえば、孫氏は1981年の会社創立時からインターネットが使われ始めた1995年ころまでの対談や講演などの中で、しばしば遺伝子による日本人と西欧人の性格の違いなり、遺伝子DNAの働きなりと、おおよそビジネスや経営とは程遠いとしか思われない米科学雑誌「サイエンス」や「エレクトロニクス」、英科学雑誌「ネイチャー」や我が国雑誌「ニュートン」の掲載内容をよく引用することがありました。
 多忙な経営者としての氏を思えば、これを興味本位なものとして受け取けとってしまうには短絡的であると感ずるとともに、またその熱の入れ方がどうも尋常ではないと、当時、不思議に思っていた人も多かったと思いますが、実はそこに、深遠な目的があったのです。
 「企業の存続と繁栄に自然の掟を謙虚に学ぼう」という「企業の永続性をつきつめていく重大な課題のため」であったことが、氏の語る次の言葉を見てはっきりとわかってきます。 

自然の摂理を組織に吹き込む

【 多くの新しい事業が旗揚げしていく一方で、また多くの事業が行きづまり、この世から姿を消していっているのも事実です。しかし生物界に目をやりますと、あれだけ単純な脳細胞であるにもかかわらず地球上の生物の種類として60%も占め、その王国を築いている昆虫は、自分の身を守り、子孫を増やし、自然に適応してきた結果であることがわかります。
 そこでこの昆虫という生物の世界から考えれば、それよりもずっと高等な人間の営む企業が、行きづまったり消滅してしまったりするのは、どうしてもおかしいのです。
 だから個々の個体に寿命はあっても、種として遺伝子DNAを受け継ぎながら、単純な単細胞生物から人類に至るまでの約40億年にわたり進化し続けてきているこの自然の摂理を紐解き、その生き長らえるメカニズムを僕は一生懸命考えたのです。

 そこで僕なりの独断と偏見でいえば、その結論は2つに集約されました。
 1つは、究極的に“死にたくない”という本能によるものではないかと。本能とは長い歴史のもとで、生命維持のために積み重ねられてきた結果であり、このことはどの教科書にも出てきませんが、やはり病原菌や食物連鎖も含めた外敵を考えると、それらさしせまった危機から逃れる、あるいはその危機感にさらされるということが、彼らを自ずと守らせ生き長らえさせることにつながったのではないかと。
 またその間、DNAのコピーミスといったことが起きる。いわゆる突然変異というやつです。そしてこれが自然界によって試される。それまでに存在しているDNA生命体を食い物にした外敵も、新しく出てきたDNAへの攻撃は効き目を失っていきます。
 また、親一人のDNAの完全コピーである無性生殖に比べ、有性生殖や異種配合は、片親だけとは違う新しいDNAの子供を創出するという点で、これと同じ効果をもたらします。

 もう1つは、繁栄している固体に着目すればわかります。それは自然界におけるセックス・アピール、つまり他を惹き付ける魅力です。これが優勝劣敗の起因となって繁栄を助長し、また進化の一翼をも担っているということです。
 ではこの魅力というのは何なのか。どこから湧いてくるのか。考えてみるとそれは競争の中で選別され出てくるということに気が付きました 】と。

 単細胞や有性生殖、遺伝子DNAや突然変異、また異種配合など、これらは普段の経営やビジネス、あるいは経済界とはまったくかけ離れた世界の事柄で、やはりしっかりとした目的意識を持ち、常日頃注意深く科学分野の書籍や雑誌に目を通していた氏をそこに伺い知ることができます
 さらに氏は続けます。

進化・自然摂理を、成功・存続する事業体への具現化

【 そこで、死にたくないと思い、また魅力をもかもし出す、ひいては進化にもつながるこの生き長らえるメカニズムを、何とか企業の中に生かせないものか、と考えました
 まずは、自然界での増殖の基本、分裂を繰り返すのは最小単位である細胞であり、またその核の中に遺伝子DNAが在るという事実です。
 一方、実業界にあって“死にたくない”という点に目をむければ、小さなベンチャー・カンパニーの個人ほど“存続したい、倒産したくない”の思いを強く持っています。

 こうした観点を考慮して、私は組織を小さな独立した会社のように10人以下の最小単位チ-ムに分け、また核としてのリーダーが進化し易い体制を敷こうと考えました。
 しかしこれを、商法上の会社として分けると税務会計の実施などややこしくなるので、仮想会社・バーチャルカンパニーとし、そこで“死にたくない”と思わせるような危機が、随時訪れるメカニズムをあらかじめ仕組むことにしたのです。
 つまり、常に倒産やM&Aの対象にさらされるという危機です

 そのかわり経営資源の配分も含め、すべては自分たちの責任で運営させる。つまり人事権も、値段決定権も、営業上の決定権も、全部その核に当たるチームリーダーに持たせ、それに皆が協力するという仕組みです。市場のニーズが一番わかっているのは、現場の人間だからです
 従来だと、彼らに損益計算書などの羅針盤が渡されていないから、自分たちで意思決定ができない形になっていました。そこでチームには損益計算書とバランスシートと資金繰り表、この3つを持たせるようにしたのです。特に3番目の資金繰り表が鍵なんです。倒産というのは、カネが切れたときに倒産なんです。赤字は何ぼ出しても倒産しないですよ、カネがある限り。

 そして、そのバーチャル・カンパニーごと、おまえさんとこの資本金は幾ら、借入枠は幾らで利益の何倍までよ、と決める。またAだとかCプラスだとか、レーティングもして、それにより金利は幾らと。そして資本金プラス借入枠の金額が全部なくなってしまったら倒産です。
 すると死ぬ間際に、皆必死で考えるからDNAがバッと進化する。カネの借り入れや新規お客様の発掘などのごく初歩段階のものから、もっと突っ込むと何でも変えようと仕事のやり方すら変えて必死の思いで努力する。このように常に市場の変化に適応した形で、このバーチャル・カンパニーはどんどん進化していくというようにしたのです。

 また、競争の中での生き生きとした活気、これが魅力となって人が集まり、魅力のあるところが、より強くなって増殖していく。競争が魅力を育て、魅力が競争を煽るようにしたわけです。
 この体制には、小さいがゆえの強みがあると思いますが、ただそれだけの強みならば、本当に独立した方がいい。しかし組織はそれこそばらばらになってしまう。そこで外に勝手に広がろうという遠心力に対し、それを引きつける求心力が必要になってくる。
 ランダムに飛んでいる夜行虫も、結局は光の方に集まってくるように、そのDNAの進化の方向が会社の願うべき方向になるようなインセンティブ制度、おカネだけではない別の総合的なものを考えてやることが必要となってくるわけです 】と。

 自然界の摂理には、何十億年にも亘る歳月の実験結果という重み、尊厳があります。生命の進化にもつながるその生き長らえるメカニズムを、何とか企業の中に生かせないものかと考える氏には、やはりただ者ではない経営気質を見る思いがします。
 かつて私は、内外で偉大な足跡を残されている第一人者の方々の考え方をデータとして、コンピュータ分析したことがあります。
 その結果、抽出されてきたのが20ほどの成功要因で、なかでもその中心にあったのが「変化への対応・変革・革新」という“チャレンジして変えていく”という姿勢でした。
 ここで見た彼らの成功への過程は、まさに淘汰を含めた自然界の進化そのものを見ているようで、したがってその結果を纏めた拙著のタイトルには「企業進化論」と名づけた経緯があります。
 孫氏の言う自己増殖とDNAの進化。圧巻は意図的に危機が訪れるようにする氏の仕掛ける仕組みです。誰もが知る身近でしかも大きな企業を見回しただけでも、例えば君臨のあとで、存亡の危機にさらされたからこそ生まれ変り、大きく発展した今日のアサヒビールやクロネコヤマトがあり、またベネッセやブラザー工業などの事例があって、まさにこの危機の後における新天地への飛躍がそこにありました。
 孫氏のバーチャルカンパニーが実施されたのは1996年でしたが、氏はさらに進化に重点をおいた「自己進化モデル経営」として、300年もの大計を考えていました。その新構想の一つがウエッブ型組織で、すでに1999年の10月から実践に移されています。
 次はそれについて当時語った氏の言葉です。

300年の大計・進化論・・・世界初の組織形態

【 今後の経営でどのような方向を目指すか、僕の一番重要なメインテーマは「自己進化モデル経営」で、それを300年かけてつくり上げようと考えています。
 大企業病がなぜ起こるのか。それは多くの者が、俺が何ぼサボったってつぶれっこないと思い、また逆に大企業だから何ぼ頑張ったって何ぼのものよ、と感じ始めるからです。
 だから、仕事で競争するというよりポストを争います。派閥ができ、根回しとか、人脈とか、あまりに属人的な事柄で右往左往します。

 ところが、300年という長い視野で企業の存続を考えると、そういう属人的なことは、まったく物事の現象面でしかないことに気付きます。300年勤める社員も、300年取引する商売相手もいないからです。そして「本来、会社はどうあるべきか」という本質に目が向きます。私は本質に忠実でありたいのです。

 今までの工業社会では規模の競争やその追求で、マスに訴える大量生産でなければならなかった。だからそこには大量生産方式に適合した、例えば創業者のカラーに染めていくといった、基本思想を同じようにリピートしていくスタイルの自己増殖ケースはありました。
 しかしそこでは逆に、何の創造性も要求されないため、自然と組織の意思決定メカニズムは本部からの統制レベルが強くなり、本部集中管理型となっていった。だから組織の効率性は強みだったのですが、一方、進化に一番重要な迅速で柔軟な対応が大いに欠けてしまったのです。

 自然界の生命体が持つ2つの基本機能、単細胞生物に見られる自己増殖機能と人類に至るまでに見られる自己進化機能。
 先にも述べたように、それらの連続性と進化のメカニズムがどのようにして起きるのか、企業の永続性と発展繁栄という観点から一生懸命考えてきました。
 特に半永久的に進化しつづけられる何かがわかれば、それを意図的にソフトバンクの組織体に組み込む。そうすれば、僕がいなくなっても、300年と言わず企業は勝手に進化して強くなっていく、そう思ったわけです。

 わかっていることはDNAの変化、それが自然淘汰・適者生存というフィルターをとおして進化の形で残るということです。そこでは突然変異や異種混合が大きくかかわっている。純潔主義というのは、突然の環境の変化で絶滅する危険性があるのです。
 僕がジョイントベンチャー戦略をどんどんやっているのは、このDNA異種混合を意図的にやって、より進化の度合いを早めているわけです。そして、さまざまな環境に適応し進化する集団でありたいと思っているのです 】と。

 本部からの集中管理では、進化に一番重要な迅速で柔軟な変化への対応が大いに欠けるとして、その統制レベルを極限までに縮小し、また突然の環境変化で絶滅する純潔主義に対して決別する形で、意図的なDNA異種混合をもくろみ、属人的なことが入る余地のない300年という長い視野で企業の存続を考えた氏だったのです。
 そしてさらに氏は続けて語ります。

3階層持ち株会社・ホールディングスモデル

【 これらを総合した組織としてソフトバンクは、図のような徹底的分散型の世界初となる「3階層持ち株会社モデル」をつくりました。従来のピラミッド型のように、本社機能みたいなものがドカーンとあり、僕がその中央にいて、全部コントロールしようなんていうつもりはさらさらありません。
 だから真ん中の本体は、社員が6人の、グループ全体の戦略を考えるだけという「純粋持ち株会社」です。日本の一部上場会社で社員6人などという会社は歴史上存在しませんでした。僕以外の5人は役員でも何でもなく、何ら意思決定、権限行使権力を持っていない人たちです。20代、30代のただひたすら頭がよくて、僕のサポートをする戦略スタッフです。

 この純粋持ち株会社の周りに、ソフトバンクの100%子会社である「分野別持ち株会社」があって、これもオペレーションは何もしない。出版とか、ファイナンスとか、あるいはヨーロッパとかそれぞれの分野・地域別の戦略を練るだけです。
 そしてそのもとに最終的な事業体、ヤフーやEトレードなど、それぞれの環境に合わせた別々の「ブランド」がいっぱい独立してぶら下がっている。
 各ブランドのトップは、そのビジネスの創業者として頑張っている人たちであり、それらM&Aで買い取った企業、ベンチャーキャピタルとして投資した企業のすべてが、自主独立した組織体になって集まる銀河系のような組織体です。
 お互いに引力を持ち合っているけれども、統合的意思決定命令組織などが、銀河系の中心部にないのと同じです。

 ソフトバンクは筆頭株主ですから影響はたしかに与えている。グループ全体でシナジー(相乗)効果が上がるように影響を与えますが、命令など一切コントロールはしません。
 だからまったく新しい組織体です。目標とするシステムは生存欲求、種の保存欲求をどんどん意図的に行う進化企業の集合体です。これを意図的にやった会社は、産業革命以来1社もありません 】と。

 まったく新しく編み出されたこの経営組織形態。いかがですか。これ以上確実なものはないという大自然の摂理を手本として経営の中に取り込み、あくまでもその本質を追及しようとした氏です。
 DNA、あるいはまた銀河系などと、生物学だけでなく天文学の話まで出てくる氏の話ですが、厳然として存在し、そして存続している自然界や大宇宙の摂理を、経営という世界にまで取り込み、生かそうとしている事業家は、世界広しと言えども、まさに氏しかいません。

 日本には以前から持ち株会社あるいは○○グループというものはありましたが、孫氏の意味している形での組織はありませんでした。
 ここにきてお気づきの皆さんも多いと思いますが、今日、「セブン&アイ・ホールディングス」とか「みずほホールディングス」、「ヤマトホールディングス」とか「ANA ホールディングス」など、その他多くの企業がホールディングスという名をつけるようになっています。
 孫氏はすでにそれを1999年に始めていたということです。

 この組織形態を始めてから20年、世界をまたぐ投資ファンドをいくつも立ち上げ、またM&Aを盛んにし、本年のSoftBank World 2019 でスピーチした内容は、この構想がブレるどころか、それを群戦略としてますます押し進めていることを裏付けています
 1985年の病床で読んだ孫子の兵法。そのベッドの上で立案した「孫子の二乗の兵法」にある「群」の文字。この点からも34年間、その考え方はまったくブレていないということがわかります。
 氏はこんなふうに言っています。“私は本質に忠実でありたいのです。今までやってきたことについて、「奇をてらっている」という評価もありますが、それならば長続きしません。経営者は、長期的な視点で本質的な方針を考えるのが務めだと思っています”と。

 ここで見た子会社の持ち株制度・ホールディングスとは違うものの、1960年当時、社内の事業を小単位の組織に分け、それぞれ切磋琢磨させて発展に導く構想を実施し、今日の大をなしとげた会社があります。
 その内容は会計がキーとなっているのですが、次回はそのことにも触れ、稿を進めていきたいと思います。

(連載・第二十三回完 以下次回につづく)


執筆者 梶谷通稔
(かじたに みちとし)
  • 岐阜県高山市出身
  • 早稲田大学理工学部応用物理学科卒
  • 元:米IBM ビジネス エグゼクティブ
  • 現:(株)ニュービジネスコンサルタント社長
  • 前:日本IBM  GBS 顧問
  • 前:東北芸術工科大学 大学院客員教授
  • 現:(株)アープ 最高顧問
  • 講演・セミナー・研修・各種会合に(スライドとビデオ使用)
    コンピューター分析が明かすリクエストの多い人気演題例
  • 始まったAI激変時代と地頭力
  • 始まったネット激変時代と成功する経営者像
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  • 成功する人・しない人を分けるもの、分けるとき。
  • もったいない、あなたの脳はもっと活躍できる!
  • こうすれば、あなたもその道の第一人者になれる!
  • 求められるリーダーや経営者の資質。
  • 栄枯盛衰はなぜ起こる。名家 会社 国家衰亡のきっかけ。
  • 人生1回きり。あなたが一層輝くために。

テレビ出演と取材(NHKクローズアップ現代、フジテレビ、テレビ朝日、スカパー)

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