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会社パック

その27 ゴルフでパープレーを達成!

 孫青年は出版の失敗から、流通ビジネスでは月商などとのんびりしたことは言っていられないことを悟り、1日30分だけ特別なデータを入力させれば、すぐそのあと会社全体の決算が出てくる日次決算にすることを決断。
 さらに定期的にこれら日次決算の数値に、創業時からのデータを加え、切り口を変えた様々な指標グラフを千本集め、それをベースにしてどこに問題があり、どこをどう直さなければならないか、この「千本ノック」をバーチャルカンパニーにうまく利用して、会社の状態を徹底的にデジタル情報化したのでした。
 
 そのバーチャルカンパニーについては、当連載のその23・「自然の摂理に基づく、企業300年の大計」のところで少し触れましたが、そこでは、
 「死にたくないという思いに端を発して、生き長らえようとするメカニズムを企業になぞらえたとき、小さなベンチャー・カンパニーの個人ほど“存続したい、倒産したくない”の思いを強く持っている。
 だから、私は組織を小さな独立した会社のように10人以下の最小単位チ-ムに分け、また核としてのリーダーが進化し易い体制を敷こうと考えました。

 しかし商法上の会社として分けると税務会計の実施などややこしくなるので、仮想会社・バーチャルカンパニーとし、そこで“死にたくない”と思わせるような危機が、意図して随時訪れるようなメカニズムをあらかじめ仕組むことにしたのです」と、青年は言っていました。
 経営という観点から、こうすれば絶対赤字倒産は起こらないという点で大いに参考になることから、ここで実際どのようにしていたのか、青年の言葉とともに次に見てみます。 
 
赤字倒産は起こらない
 
【 バーチャルカンパニーを10人の単位に限ったのは、両手の指を合わせた10本のうち、1本でも欠ければすぐわかるからです。
 また、どれだけ事業の規模が増えても社員数が増大しても、こうすることによって手間がかからず、その日その日の損益状態が把握でき、日次レベルの決算が無理なくできるのです。従業員が何千人という単位の会社では、やりたくてもそのままでは日次決算など物理的に不可能です。

 バーチャルカンパニーでは、まずチームごとに、日次の損益計算書、バランスシート、資金繰り表の3つを持たせ、そのチームのリーダーをプロフィットセンター長と言って、チームの人材登用、商品開発、事務所の移転等々、全面的に決定権を与え任せます。
 この仕組みのもとで、もしも1つのチームがビジネスを遂行していくうちに赤字に陥った場合、その赤字範囲がある程度の金額を越えれば、自動的にそのチームの資金ショートが発生するようになります。

 だから、わからないままに赤字が大きくふくらむことは起こらないのです。それどころか、自動的にそのチームは解散せざるを得なくなる。つまり会社本体の内部で、一つの会社がバーチャル倒産をするわけです。
 このように常に安全バルブが利いていて、赤字は自動的にある程度の量で止まる仕組みになっていますから、止めどなく無駄な金を流しつづけ、気がついたら赤字倒産、というような事態は決してわが社には起こらないということです 】と。
 
 その具体例を見てみていきますと、まずそこではリーダーに年間を通していかに利益をあげる方向にもっていくか、あらかじめテーマの洗いだしと改善が課せられ、テーマが決まるとそれをさらに細かな項目ごと個々の社員に振り分けて、各自週間単位で年間のスケジュールを組みます。
 だから、或るテーマで誰がいつまでに何をどうするかという計画が一目でわかるようになっているのです。もちろん日々オペレーションの中で、重要な課題が発生した場合には、即、一つの新たなテーマとしてこのシステムに組み込まれます。
 
 たとえば1ヶ月分あった在庫を0.8ヶ月分に減らすにはどうすればよいかという在庫の問題があったとすると、まず、大項目の「在庫の削減」という課題を0.8ヶ月分まで削減するという中項目の課題におろし、それから仕入れ、納品、倉庫、運送、返品といった流通ルートごとに新たなリーダーが決められる。
 さらにそれぞれを一つ一つ細かく切って、その課題を振り分けられた社員は各々で徹底分析し、また彼らの間で討論が重ねられ、問題点すべてがクリアにされた段階で、初めてそれぞれの改善が実行されるということです。
 
 実行された段階でリーダーたちは、改善計画がどのようにおこなわれたかを自己採点し、それを役員たちの前で報告。その内容をまた役員たちが採点し、最終的に自己採点の点数と役員の採点を足して総合計点を出します。
 ここで孫青年の点数は社長として2倍に数えられ、その総合計点の多いリーダーとチームは、得点に合わせて報酬がもらえるようになっているわけです。
 このやり方について、孫青年は次のように言っています。
 
【 ほかの会社ではほとんどの場合、社長が担当役員に命じる。“在庫をなんとしてでも減らせ”と。担当役員は“努力します”といったようなことを言う。往々にしてそれで終わってしまう。
 いくら口を酸っぱくして言っても、システムを改善することが、自分に返ってこない限り続かない。精神論の域を出ない。人の評価も数字で表せない心情的なもので判断している。

 また従来の大企業は、会社全体としてはわかるが、自分の部門の利益があがっているかどうかが、まずわからない。なんかの拍子で見えたとしても、自分が変える権限をもっていない。たとえ変えられたとしても、自分には何も報酬がもどってこない。やる気を削ぐような組織になっている。それでは利益があがるのもあがらないのです 】と。
 
ライバルの当然の行く末
 
 当時ライバル社は、孫青年の考案になるこのような「バーチャルカンパニー」や「千本ノック」というような経営監視システムなど、当然持ち合わせていなかったことから、その後のバブル崩壊によって決定的な差が出てくるのです。
 ソフトウィングはバブル崩壊の早い時期に、本業ではないところでつまずいてしまい、1993年、二束三文で「カテナ」社に引き取られていきます。
 またソフトウエアジャパンは、急激に増大してきた不良在庫に気付く間もなく、1997年、とうとう資金繰りで首が回らなくなり、倒産に追い込まれて、ソフトウィング社と同じく、最後にはその「カテナ」社に引き取られてしまいます。
 
 これら2社の崩壊に至った源を辿れば、リーダーのマネジメント力につきるわけで、この2社は大々的な財テクをやっていたためにチェックするシステムもないまま崩壊へと向かったのです。
 しかしこれら2社を取り込んだそんな「カテナ」社も、孫青年の考えたような監視システムを持たない中で、買収に次ぐ買収の行く末に経営状態が悪化し、1998年には量販店向けのソフト卸部門で徹底的にリストラしなければならなくなるまでになってしまったのでした。
 ではこの時期、日本ソフトバンクはどうだったのか。当然バブル崩壊の洗礼を受けないなどということはありません。ところがここがポイントです。そのバブル崩壊を逆手に取るのです。

 「バーチャルカンパニー」や「日次決算」、そして「千本ノック」といったシステムを駆使することで、ライバルの攻勢や、またバブルの崩壊がもたらす負の部分を防御する一方、逆にこのバブルの崩壊をチャンスととらえ、まさかの一転攻勢に打って出るのです。
 一体、どんな手を打ったのか。それを早く知りたいとの皆さんも多いと思いますが、その前に孫青年のゴルフについての話をしなければなりません。

 と言いますのも、このあとに続くビジネスの一大方針の決定や快進撃が始まるのは、丁度このバブル崩壊寸前の1989年ころからで、それは長い療養生活から完全に本来の体調に戻ってゴルフを始めた年でもありました。
 その体調回復の様子とともに、ゴルフに取り組む青年の分析力や長いスパンで見た目標設定とその達成に、その後の氏のビジネスの進め方に重ねて見ることができることから、このタイミングを捉えてここで取り挙げることにしたわけです。
 では、まず孫青年の語るゴルフを始めたきっかけから見ていきます。
 
目標の設定と達成・・・ゴルフ
 
【 当時、ゴルフをやるヤツは許せんと、僕はそれに嫌悪感さえもっていました。と言うのも、狭い日本で広大な土地を占有し、しかも女性のキャディさんに重たいバッグを担がせ、いちばん仕事をせないかん立場の人たちが、平日遊んどる。何を考えてるんだと、憤慨しとったんです。 

 丁度その頃、そんなことを考えながら事業を始めて無理をしていたためか、大病で3年余りも寝込んでしまったのですが、幸いなんとか退院できたものの、本来の体調に戻るまでには、さらに4年ほどかかりました。そんなとき、主治医から少し運動をしなさいと言われた。ただし過激な運動はいかん、という。それに合うような運動といえばゴルフしかない。だから義務感で始めたのです。 
 
 ところが少しやってみると、これが奥深いものをもっているようで、かつまた面白い。その上、大自然の中で健康にもよく、いつとはなく一人我流でたしなんでいました。そしてこんな状態を2年くらい続けているうちに、どうせやるなら目標を立てて本格的にやろうと思うようになったのです。
そこで、1年以内に90台でまわる。2年目には80台。3年目には70台でまわり、必ずパープレイを達成する、と目標を決めたのです。それが本格的に始める最初の日でした。
 
 普通、練習場のレッスンプロについて、となるのですが、僕はそうしなかった。まず、ゴルフのうまい人達に“誰のフォームが、世界で一番きれいか”訊いた。
 すると、10人中、7~8人までが、セベ・バレステロスだという。それで、さっそくセベのビデオを買ってきて、とにかく毎日寝る前に必ず見ることにした。そしてそれを半年間徹底的に見続けました。そこでスイングとはこんなもんだ、ちゅうのが次第にわかってきたのです。実際、練習場に出かけるようになったのは、この後からです 】と。
 
 どうですか。普通、体を使って何かの技を本格的に始めるとすると、まずは練習場に行ったり、レッスンを取ったりするのが普通です。我流で始めるとすると、それはほんの遊び心での動機であり、本気度は希薄なはずです。
 では、目標まで決めたのにレッスンからではなく、我流で始めた青年は本気ではなかったのかと言いますと、他とはひと味違う、まずプロの映像を見ることから入ったわけです。つまり実技からではなく分析からです。
 青年は続けて語ります
 
分析の数式化とパープレイの達成
 
【 それから他にもスイングの定評のあるプロのビデオを見て、共通項があることを発見しました。まず、軸がぶれない。また、クラブのヘッドスピードがy=ax2になっている。yはヘッドスピード、xは時間を示し、エネルギーの法則と同じです。
 へたな人はクラブを振り下ろすときに力んでしまうから、y=axになって、ヘッドスピードがあがらず、したがって飛距離が出ない。
 つまり、クラブを振り下ろすときのスタートはゆっくり、ボールのある最下地点でマクシマムになるように振れば、ヘッドに最大限の加速パワーが入って飛距離も出る、ということです。
 そしてもうひとつ、ボールの表面に月のクレーターのようにある400個に近いディンプル。アドレスでは、その一つだけに焦点を合わせて見るのです。ボールを漠然と見て構えるから、顔が離れる。一個のディンプルだけを見ていると、頭を動かしようがない。
 アイアンのときは真上の、ドライバーのときはやや右斜め上のディンプルにフォーカスを当てる。そうすると、顔がブレずに、軸も定まってくるんです。

 そうした分析が長い間に功を奏し、徐々にスコアが上がってきて、とうとう70台が出るようになった。そしてついにゴルフを始めてから5年目、目標を決めてから3年目の1994年7月16日、徳島のJクラシックゴルフクラブにおいて、目標通りパープレイを達成することができました 】と。
 
 いかがですか。これで病から完全に健康体を取り戻していることもわかります。ちなみにこのパープレイのときのスコア内訳は、アウトが、イーグル1回、パー8回、インが、パー7回にボギー2回というもので、このイーグルは480ヤード、パー5の1番ホールでいきなり出したもの。
 フェアウエイに杭が打ってあり、それはジャンボ尾崎の飛距離だったところで、青年のドライバーはそこを50ヤードもオーバー。ジャンボのフルバックと青年のフロントとの差、50ヤードを考慮しても、このときの飛距離はジャンボ並かそれ以上ということになります。そして残り190ヤードの2打目を30cmに付けてのイーグル。
 
 このパープレイ達成時、氏は37歳。今日までレッスンプロについたことなど一度もない、とのことですが、いくら中学1、2ではレギュラーのサッカー少年であり、かつまた3年生では3塁手3番打者という野球で鍛えた運動神経や器用さがあるといっても、週に何度も練習場に通い、毎週のようにコースに行く人でさえ、80台でまわることすら、なかなかできなというのがゴルフです。
 それをとにかく、やってのけてしまうところに、氏の凄さがあります。
 
 さて、ただ単にその凄さだけを言いたいがために、わざわざここにゴルフを引用したのではありません。実はこの中に、ビジネスに取り組む姿勢とゴルフのそれとが重なって普遍して語れる氏の特長が見てとれるからです。 
 それは徹底した分析です。練習場へも行かず、ただただ毎晩ビデオを見て、実にフォームだけの分析に6ヶ月。この徹底して分析に時間をかけるというのが氏の特長で、当連載その14・「日本での創業・一世一代の事業選び」で見ていただいたように、どのような事業で創業したらいいか、それを決めるための調査分析に、実に1年6ヶ月もの時間をかけていたとおり、ここにその共通点が見出せるということです。
 
 またのちほどにもご紹介しますが、米ヤフーがまだ世に知られていない頃、それにいち早く目を付け、その株を買いつけるときも同様、専門家を入れ徹底的に入念な分析をしています。
 さらに以降に繰り広げられる数々のM&Aの前には、必ず入念な分析があり、すべてにおいて、氏が何らか意味のある行動を始める前には、このように必ず裏付けされた分析があるということです。このような背景からゴルフの話を引用しました。
 さて、バブル崩壊でライバル各社が消えて行く中、孫青年の取った逆手とはどんな方法だったのか、以下、次号で見ていきます。
 
(連載・第二十七回完 以下次回につづく)
 
 


執筆者 梶谷通稔
(かじたに みちとし)
  • 岐阜県高山市出身
  • 早稲田大学理工学部応用物理学科卒
  • 元:米IBM ビジネス エグゼクティブ
  • 現:(株)ニュービジネスコンサルタント社長
  • 前:日本IBM  GBS 顧問
  • 前:東北芸術工科大学 大学院客員教授
  • 現:(株)アープ 最高顧問
  • 講演・セミナー・研修・各種会合に(スライドとビデオ使用)
    コンピューター分析が明かすリクエストの多い人気演題例
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  • 人生1回きり。あなたが一層輝くために。

テレビ出演と取材(NHKクローズアップ現代、フジテレビ、テレビ朝日、スカパー)

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